岸田首相は、「構造的賃上げ」という言葉で宣伝しているが、賃金上昇が物価上昇に追いつかない状況が恒常化し、「構造的賃下げ」になっているのだ。こうなると国民の暮らしは苦しくなるばかりで、将来の夢もなくなる。
岸田首相は、賃金で勝負するのはかなり厳しいということは比較的早く肌で感じたのだろう。「所得倍増」を諦めて、「資産所得倍増」を前面に打ち出した。働いても豊かにはならないので、金融商品を買って豊かになろうというキャンペーンである。
確かに、日本では、家計の金融資産2115兆円のうち、現金・預金が1117兆円と過半。欧米に比べてかなり高い。「貯蓄から投資へ」は、これまで何度も唱えられたが、実際にはほとんど進まなかった。だが、今回は少し状況が違う。
NISA(少額投資非課税制度)などの改革が実施され、国民の間に真剣に投資について考えようという雰囲気が醸成されていることに加え、大幅な円安が続き、ドル建て資産などの魅力が増していることから、国民の海外資産への関心が高まっているからだ。特に若者層で海外資産への投資が急激に広がっている。これは、円預金一本というよりは望ましい変化だと言えるかもしれない。
一方、日本の金融機関の金融商品の開発や販売行動は、長らく庶民の利益ではなく、自分たちの利益最優先で行われてきたことも徐々に知れ渡ってきた。そこで、岸田政権は、23年になると、「資産運用立国」を掲げ、その中で、日本の資産運用会社の改革と能力アップを目指す方針を打ち出した。国民に貯蓄より投資をしろと言うのだから、その投資が利益を生むように運用会社の質を高めるというのは、確かに悪い話ではない。その結果、投信の手数料や株式売買手数料の引き下げ競争も起こり望ましい変化も生じている。