――だから、「無理」と言われた視覚障害者用の自動運転も「できる」と?

 私は患者さんたちが「また運転したい」「自動車に乗れたらな」と言うのを毎週のように聞いていた。ニーズがあったんです。それで、経産省の会議で「みんなに行き渡ったから障害者にも使わせてあげる、ではなく、本当に必要なところから使わせてください」と言った。そうしたら、内閣府の「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」につないでくれて、私たち自身が応募してその研究グループの一員になりました。

「技術で解決しましょう」

 実は、東京の西葛西・井上眼科病院におられる國松志保先生は、すでにドライビングシミュレーターを使って運転能力を調べる研究をしておられました。その國松先生にも入ってもらって、視機能が落ちた方にどういうアシストがあれば運転ができるかの研究を始めた。一般に視覚障害というと、重度の人しか思い浮かべないんですが、病院では軽い人から重くなった人まで、全部のグラデーションを診ているんですよ。

――確かに。一口に視覚障害者と言っても、いろんなニーズがあるわけですね。

 米国カリフォルニアなどは補助具を使うと0.2程度の低視力まで運転できますが、日本はふつう運転免許は両目で0.7以上ないとダメですよね。一方で、多くの国は視野については厳しいのに、日本では視野制限は緩い。でも、視野が狭くなる緑内障という病気は日本人にすごく多い。本人が気づかないうちに視野が狭くなっていくんです。それで事故を起こしても、警察は「前方不注意」で処理していた。「見てたけど、見えなかったんだ」と運転者が言っても、警察は理解してくれなかった。

 明らかに、日本の法律は視野のことがわかっていなかった人が作ったんですが、今更「危ないから免許を取り上げよう」ではなく、「技術で解決しましょうよ」と主張しています。

 最初は、自動ブレーキがあれば安全かと思ったんですが、自動ブレーキって常に完全に止まるわけじゃないんですね。しかも性能は各社マチマチで、それがあまり公表されていない。内閣府SIPの研究で、筑波大学の伊藤誠先生がドライビングシミュレーターを使って実験したら、中途半端な自動ブレーキがついているとかえって事故が増えるという結果もありました。

 一方で、視野が狭くても目を動かすのが上手な人は事故を起こさないとわかった。タクシーの運転手をしている人もいます。だけど、これぐらい狭くなったらさすがに危ないよ、というあたりを明らかにしてきています。どういうサポートをするのがいいかというと、音声で「右を見ましょう」といった行動の指示を出すのがいい。

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3年ぐらい泣いていた