一つの器を仕上げるのに2年かけられる。繊細でありながら、使えば使うほど味が出てくるのだ。これほどの逸品を、滅ぼすわけにはいかない。自分の代で日本中の人々に輪島塗を使ってもらい、世界にも広めたいと大志を抱き、父親を説得して、継ぐことを許された。
安くても、みそ汁椀一つで2万円、高いものでは1千万円する。欲しいと思ってもなかなか入手できる値段ではない。そこで、ギャラリーと併設したカフェを始め、お客に直に使ってもらい、購買意欲を高めることに成功した。
そして、思いついたのが飲食店への器のレンタルだ。良い器を使いたくても高価で諦める経営者は多い。
父親や職人には反対されたが、レンタルで輪島塗の価値が下がるわけではないと、23年3月にビジネスをスタート。最初の客が、東京国立博物館の敷地内にあるカフェ、TOHAKU茶館だ。
次の世代に輪島塗を継承していくために、意欲的に推し進めていく覚悟だ。(ライター・米澤伸子)
※AERA 2023年10月2日号