
全国各地のそれぞれの職場にいる、優れた技能やノウハウを持つ人が登場する連載「職場の神様」。様々な分野で活躍する人たちの神業と仕事の極意を紹介する。AERA2023年10月2日号には田谷漆器店 漆器プロデューサー 田谷昂大さんが登場した。
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1818年創業の輪島塗を販売する田谷漆器店の10代目だ。2016年に家業を継いでから、7年間で売り上げを2倍にした。
能登半島の北西、石川県輪島市で受け継がれてきた輪島塗の名を全国に広げたのは、漆器の作り手である職人と、デザインのプロデュース、作業工程管理、営業と売り手も担う塗師屋(ぬしや)と呼ばれるマネジメント業が別だったからだと言う。
実家がその塗師屋を担ってきた。家業を継ぎたいと父親に伝えた時、反対された。
輪島塗は衰退産業で、自分の代で辞めてもいいと思っていると。
しかし、諦めなかった。その決意は、大学で一人暮らしをした時にかためていた。自分で買ったお椀でみそ汁を飲んだら、熱くて器を持てなかった。幼い頃から慣れ親しんだ輪島塗のお椀は、熱い汁を入れても、手には温かみを感じ、汁をすすれば唇に優しさを感じ、美味しさが増す。そのことに、初めて気付いた。
輪島塗は、輪島の職人にしか使用が許されていない、“地の粉”という、珪藻土を使い、六職に分かれた漆職人、「木地師(きじし)」「塗師(ぬりし)」「研(と)ぎ師(し)」「呂色師(ろいろし)」「蒔絵師(まきえし)」「沈金師(ちんきんし)」が各工程を担い、全て漆を使い作り上げられる。