グッチの長財布、失礼ながらボロボロ。現金は5万円。千円札が多めなのは「割り勘のとき、私が全部千円札で払えば、1万円札を出す人にお釣りがいくから」。クレジットカードは6枚。楽天、ビックカメラ、大丸、ルミネ、ダイナース、三菱地所

「当時はひどかった。30歳手前で運用担当者としても駆け出しなのに、毎晩のように夜は銀座。お金は取引先の外資系証券会社持ちです。

 僕は運用担当者として外国債券を100億円くらい発注し、相手に莫大な手数料を落とします。接待する外資系証券にとって、銀座で僕に毎晩20万円使ってもどうってことない。でも、なんだかおかしいですよね」

 こうした「?」の経験が中野さんを奮い立たせ、2006年6月にクレディセゾン100%子会社のセゾン投信設立につながった。

 それから17年。3本の投信で純資産総額6900億円以上、顧客15万人にまで育った。

 セゾン投信の成長の原動力は顧客とのコミュニケーションが多い直接販売にあった。

 スリムでさわやかな中野さんが「長期・つみたて・分散」という投資の極意を説いて回るうちに、「つみたて王子」というニックネームがついた。

 会社設立から今年6月にセゾン投信を去るまでの17年間、最もつらかったことは?

「今回の退任です。お客さまに約束したことを守れなくなったのが心苦しく、悔しい。

 30年、40年と長期投資しましょうと言ってこられたのは、社長として会社をグリップしていたから。

 ここ数年はできるだけ仕事を任せて口を出さないようにしていました。社内の『王子塾』という勉強会で『会社の歴史やお客さま全部主義は絶対に変えてはいけない』と何度も言い、遠い未来の経営の引き継ぎに少しずつ備えてきました。そのすべてが瓦解(がかい)してしまった」

 セゾン投信を立ち上げた目的は長期投資を通じて納得のいく人生をつくってもらうことだった。

「だからこそ、会社の規模拡大や売り上げアップのような目標設定は避けてきました。

 でも、数値目標を設定して会社を大きくしたいというのが株主のクレディセゾンの意向だったのでしょう。

 4月5日に呼び出されたとき、その場で退任を言い渡されました」

 セゾン投信は中野さんが退任した際、「お客さまへのメッセージ」として、「経営理念は変わらない」と「約束」した。中野さん、今後も経営理念は変わらないそうですが?

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中野さんの新しい会社の名前は?