小説を書くという夢を抱いて精神科医の道へ

 もともとTomy先生は小説を書くことに憧れる文学少年だったそうです。なのになぜ医師に?

「父が内科の開業医だったので、自分も将来は医師になるというイメージしかありませんでした。作家は……芸能人になるのと同じくらい遠い憧れでした」

 精神科を選んだ理由はと聞くと「手先が不器用だったんです」と笑いつつ、こう付け加えました。

「一番文系に近い診療科かな、とも思いました。でも実際には精神分析みたいなことはしないし、神経内科とか生理学とかに近いですね。それでも精神科には、人の心を探るロマンみたいなものがあって、好きになりました」

 医学部を卒業し、精神科医として働き始めたTomy先生。そのかたわらブログを書き始めたのは10年のことでした。

「小説を書きたいけれど、新人賞に応募しようにも仕事が忙しくて長い作品を書く時間なんてない。しかも父が倒れ、仕事の合間に父の入院する病院にお見舞いにも通っていました。その父が亡くなったとき、心と時間に少しだけ空白が生まれたんです。『だったらブログを始めたら?』と言ってくれたのは、いっしょに暮らしていたパートナーでした」

 パートナーは27歳のときに知り合った精神科医の男性。Tomy先生の夢を応援し続けてくれる大切な存在でした。ブログは “精神科医Tomy”というキャラクターを作って、顔は明かさずに書き始めることに。

「当時は自分がゲイであることを公表すべきじゃないと思っていたんです。だからブログにだけは『ゲイの精神科医』として登場し、パートナーとのほのぼのとした生活や、悩み相談への回答をオネエ口調で書きました。ぼくは普段そんな話し方はしませんが、思いがけない効果がありました」

障子越しの優しい朝日を浴びながら、パソコンに向かうのが日課だそうです。SNS への投稿は「読む人が『自分を否定された』と感じないような、寄り添う言葉遣いを意識しています」と言います 写真/上田泰世(写真映像部)

 一般的に、医師が所属や本名を明かして個別の悩み相談に答えるのは難しいところがあり、「これは正式な診察ではない」と伝えても誤解が生じやすいものです。でも、親しみやすいイラストがトレードマークの医師キャラで「こう思うわ!」と言えば、診察だと思われにくく、柔軟に受け止めてもらいやすかったといいます。

「ブログの読者も増え、12年に初の本を出すことができましたが、残念ながら売れませんでした」

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