では、クマと出合ってしまった際、どうやって身を守ればいいのか。
「クマとの間に十分な距離があれば、そっとその場を離れます。慌てて逃げるのはよくない。クマは逃げるものを追う性質がありますから」
どう考えても逃げきれない距離で遭遇した場合は、そっと物陰に身を隠し、クマが通り過ぎるのを待つ。
「電信柱や木立のような、全身が隠れないものでも効果があります。クマは眼が悪く、頭と胴、手足があること、つまり五体であることで相手が人間であると認識します。じっとしていることが大切で、手足をばたつかせては意味がありません」
もっとも危険なのは、お互いにばったりと出合ってしまった場合だ。距離が近いので、身を隠す間もない。
「クマが執ように攻撃してくるのは顔と首です。腹ばいに伏せて顔を地面につけ、両手で首筋を守ります。防災というより、減災の考え方です。なんとか生き残って、救助を求める。昭和の時代は搬送中に亡くなるようなけがでも、今なら高速搬送と高度医療で命が助かる確率が高まりました。そこにかけるわけです」
米田さんは自分の身をクマにさらして被害対策を研究してきただけに、その言葉には鬼気迫る重みがある。
殺すことも手伝ってきた
筆者も昔、北海道の笹薮の中を登山中、突然、クマと遭遇したことがある。距離は約5メートル。見るからに若いクマで、こちらを興味深そうにしばらく見つめると、藪の中に去っていった。確かに、米田さんが言うように、森の中のクマの表情は穏やかで、自然の豊かさを実感した。
米田さんは「クマの被害対策をずっとやってきたわけですが、場合によってはクマは害獣でもあるので、殺すことも手伝ってきた」と語る。
そして、こう続けた。
「今、山村の人々の被害意識と、都市住民の愛護の意識との乖離が大きい。クマを捕獲すると、地元の自治体に『殺すな』と電話がたくさんかかってきて、事務の停滞を引き起こすほどです」
市街地や都市に出没するアーバンベアへの注目は、クマとの共存を考えるきっかけになるかもしれない。
(AERA dot.編集部・米倉昭仁)