「今年は舞台が続くなど、役柄を演じることが多かったので、ここはコンサートとして、ダンスナンバーやミュージカルナンバーも含めたいろんな楽曲をお届けしたいと思ったんです。そもそも宝塚に入るまで、音楽の時間かカラオケで歌うくらいしか歌の経験がなくて。歌にはすごく苦労したんです。でもそのうち男役の低い声で歌うのが、自分にとっては歌いやすい歌い方ということに気がついた。そして歌えば歌うほど、太く低い声など思うがままに出して歌えるようになっていったんです。経験を積めば積むほど、表現できることが多くなっていくことを、歌を通しておしえてもらって、歌うことがどんどん好きになっていきました」

 9月24日まで、豪華ミュージカルスターを日替わりで招いて東京、大阪で開かれるこのコンサートは、全会場のチケットが発売当日に完売。オンラインの生配信も決定している。

時にはブレーキを踏み

 コロナ禍の「時間はあるのに何も動けなかった」時期を経て、21年から始まった「マドモアゼル・モーツァルト」「エリザベス・アーデンvs.ヘレナ・ルビンスタイン -WAR PAINT-」「精霊の守り人」などの主演舞台はつぎつぎヒット。ドラマやバラエティー番組など、活躍の場もどんどん広がっている。宝塚時代のようなストイックな明日海さんが、そろそろ戻ってきたころでは?

「いえいえ、コロナ禍のワンクッションで、意識が一旦離れたからでしょうね。やることをちゃんとやった場合は、自分がご機嫌になることをしてもいいんじゃないかって思えるようになったんです。スーパーで旬の材料を買ってきて、おいしいものを作ろうとか、そうそう、前は我慢してましたけど、『この揚げ物おいしそう!』と思ったら、今は食べちゃうよとか(笑)」

 以前は舞台の参考になることをしないと落ち着かなかった帰宅後も、今はソファでのんびり昼寝をすることも。パンデミックはほぼ去ったけれど、「ときにはブレーキをかけたりができるようになった自分」は残ったことを、実感しているそうだ。では最後にうかがいます。なかでも、自分が一番ご機嫌になることは何ですか?

「動画配信サービスも楽しい。おいしいものをおなかいっぱい食べて、自分を甘やかすのも楽しいですよね。でも……」

 一呼吸置いて、明日海さんはこう言う。

「やっぱり一番楽しいのは、これから舞台が始まるぞと、楽屋で支度をしているとき。1周して、ここに戻ってきました」

 パンデミックで働き方の見直しをさせられた全国の働くみなさんの、「うんうん」という同意の声が、聞こえた気がした。(ライター・福光恵)

AERA 2023年9月25日号

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