アットコスメでシートマスクを買い、竹下通りに向かった。

「私の車椅子は電動だから大丈夫ですけど、この坂道、手動だと(ブレーキをかけ続けるので)手の皮がむけちゃうと思います」

 言われて初めて、緩やかな下り坂を歩いていると気がついた。

 喉が渇いてきた。カフェに入ろうと路面店を見るが、たいてい入り口に段差がある。5センチ程度の段差なら、バックで乗りあげることができるが、人混みではそれも難しい。

「ふらっと出かけて、気になった店に飛び込みで入るのって、本当に難しいんです」

 インスタグラムで気になっていた家具店に向かった。ソファが見たいという。店に近づくにつれ、気になるのは入れるかどうか。さしみちゃんも同じだ。

「この店は段差ありますかね……あ、ありました」

 入り口につながる場所に植木がある。店前で作業していた店員に声をかけようと思ったところで、店の中に入ってしまった。

路面店の多くは段差があり、一人では入店することができなかった(撮影/家老芳美)

 さしみちゃんは、店の外からガラスの向こうにある家具を見つめた。

「大声を出して店員さんに主張できる人もいると思うけど、私は気を遣っちゃうほうなので」

 店員は忙しいのか、こちらが目に入っていないようにも見えた。

 ショッピングをしてカフェに入る。何げない日常なのに、さまざまなハードルがある。誰かに尋ねたり、頼んだりする局面が幾度も出てくる。一緒に歩くと、相手が「“塩対応”かもしれない」と思うだけで、声掛けを躊躇う気持ちもよくわかった。

「店に入れないのは一緒に来てる友達に申し訳ないと思う。友達は『大丈夫だよ』って言うけど、行き先を調べて無理そうなら、『用事がある』って断ります」

(編集部・井上有紀子)

AERA 2023年9月25日号より抜粋