さしみちゃん/1995年生まれ。車椅子ギャル。都内のIT企業に勤めるグラフィックデザイナー(撮影/家老芳美)
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 国際都市・東京。バリアフリーや多様性への理解は進んでいるように見えるが、実際はどうなのか。車椅子ギャル・さしみちゃんと東京を歩いた。AERA 2023年9月25日号から。

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 今春、SNSである動画が物議を呼んだ。駅のエレベーター前、並ぶ車椅子の女性を素通りして、次々と人が乗り込んでいく──。優先されるべき人が、スルーされる光景は、衝撃だった。

 この動画を発信した車椅子ギャルのさしみちゃん(27)によると、これは日常だという。さしみちゃんが見る国際都市・東京はどんな景色なのか。

 午前11時、東京メトロ・明治神宮前駅で待ち合わせた。

「私調べでは、都内で一番行列のできるエレベーターがあるんです。乗り込むまで、20分待ったこともあります」(さしみちゃん)

 件のエレベーターには約20人の行列ができていた。エレベーターは表参道の入り口である大通りにつながっている。ベビーカーの家族連れもいたが、近くのエスカレーターに乗れそうな人たちも列に並んでいた。

さしみちゃんが「都内の駅で一番行列ができる」という明治神宮前駅のエレベーター(撮影/家老芳美)

 人々はスマホを見ながら列に並び、次々に地上に上がっていく。エレベーターは入り口と反対側の扉が開くタイプで、振り返る必要はない。後ろに車椅子の人がいることさえ、気づいていないのかもしれない。

 この日は、エレベーターを2回見送り、5分ほどで地上に出た。声をかけてくれた人もいた。さしみちゃんによると、「レアケース」だという。

 東京メトロ広報部は本誌の取材に書面で回答した。行列は認識し、「エレベーターしか移動手段がないお客様におかれましても、すぐにエレベーターをご利用できず、お待ちいただいている状況は認識しております」という。東京メトロは、エレベーターの近くにポスターを掲示し、マナー向上を求めている。

「エレベーターでしか移動が難しい方がいます」「『お先にどうぞ』、のひとことを」

 ポスターは国土交通省の署名入り。だが、これが奏功しているかというと、心もとないというのは先ほど実感したばかりだ。

「小さな貼り紙っていう感じで、存在感が薄いんじゃないかな」(さしみちゃん)

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