イメージ写真
※写真はイメージです(Getty Images)
この記事の写真をすべて見る

 ゲノム編集技術が、著しいペースで進化を遂げている。狙った遺伝子を改変させることが可能なこの技術は、医療分野や農水産業などでの活用が期待されている。だが一方で、リスクもある。北海道大学客員教授の小川和也氏は、著書『人類滅亡2つのシナリオ AIと遺伝子操作が悪用された未来』(朝日新書)の中で、将来的に、ゲノム編集技術を悪用したバイオテロや人工ウイルス散布が起きるリスクについて警鐘を鳴らしている。本書から一部抜粋して紹介する。

【図】ゲノム編集の仕組みはこちら

生物兵器によるバイオテロや人工ウイルスの蔓延

 国家間のゲノム権力闘争の火種となる可能性がある一方、生物兵器を用いたバイオテロや人工ウイルスの蔓延も、人類に大きな悪影響を与えるリスクがある。

 2018年1月、カナダのアルバータ大学のデイビッド・エバンス教授らは、オープンアクセス型学術雑誌『プロスワン』で、化学合成したDNA断片から馬痘ウイルスを生成したことに関する研究論文を発表した。

 馬痘ウイルスの対象動物は馬であるものの、この技術を応用することで、天然痘ウイルスの作製が可能になることを微生物学者などの専門家は危惧する。リスクのある論文を掲載したことに対し、多くの研究者から批判が寄せられたが、エバンス教授は「技術の進歩に逆行する試みや企ては長年にわたってすべて失敗してきた。技術を規制するよりも、そのリスクを正しく理解した上で、これを軽減するための戦略を立てる必要性を人々に教育するべきである」と反論している。「それも一理ある」と受け止めるかどうかは意見が分かれるところであろう。しかし、リスクというものは、意見が分かれるその間隙を突くものだ。

著者プロフィールを見る
小川和也

小川和也

北海道大学産学・地域協働推進機構客員教授。グランドデザイン株式会社CEO。専門は人工知能を用いた社会システムデザイン。人工知能関連特許多数。フューチャリストとしてテクノロジーを基点に未来のあり方を提唱。著書『デジタルは人間を奪うのか』(講談社現代新書)は教科書や入試問題に数多く採用され、テクノロジー教育を担っている。

小川和也の記事一覧はこちら
次のページ