ゲノム編集技術が、著しいペースで進化を遂げている。狙った遺伝子を改変させることが可能なこの技術は、医療分野や農水産業などでの活用が期待されている。だが一方で、リスクもある。北海道大学客員教授の小川和也氏は、著書『人類滅亡2つのシナリオ AIと遺伝子操作が悪用された未来』(朝日新書)の中で、将来的に、ゲノム編集技術によって親が望む容姿や能力を備えた「デザイナーベビー」が量産されるリスクについて警鐘を鳴らしている。本書から一部抜粋して紹介する。
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ゲノム編集技術を未来永劫、〝理想的〞に扱うことはできるのか
威力のある技術は新しい時代を作り、未来を紡いできた。ゲノム編集技術の獲得は、人間自らがヒトの誕生と成長を合理的に操作できる力を初めて手にしたことを意味し、人類の歴史上、大きな転換点をもたらすインパクトを持っている。人間の尊厳、人間の生殖、人間の機能、人間の能力など、人類の根源に触れる比類なき諸刃の剣である。
しかも、次世代から次世代へと影響を連鎖させるのが生殖に関するゲノム編集技術だ。生まれてくる子だけではなく、さらにその子の子孫にも影響を波及させる。現世代の意思決定、価値観、倫理、ルールだけを前提にしても不十分なのだ。現世代が未来への責任を負い、善処に努めているからといって、変動要素の多い社会・地球環境の中で、次世代を理想的にデザインできると考えることは驕りである。次世代のその先の世代となると、さらに未知数だ。
それを踏まえたときに、人間が未来にわたりゲノム編集技術を正しく扱えるという絶対的根拠など本当にあるのだろうか。現世代がゲノム編集技術を濫用したならば、次世代もその影響を必ず受ける。もし、現世代が濫用せずに済んだとしても、さらに技術力が上がり、人間の能力を拡張したり、デザイナーベビーを生み出す欲や必要性が増したとすれば、次世代では抑制できなくなるかもしれない。ひとたびデザイナーベビーの存在が許されてしまえば、小さな一歩が少しの束になり、少しの束がなし崩しに大きな束になりかねない。
大きくなった束は、デザイナーベビーか否かで人間の優劣が際立つ世界を徐々に形成し、差別意識が継承されることで世代を超えて社会的分断が進む恐れがある。