麻生太郎副総理(当時)の発言が「日本の声」として伝わる違和感

 なお、政権や軍だけでなく、米政権の政策に影響を与えるワシントンの有識者たちの間でも、米議会のあまりの強硬姿勢に眉をひそめ、中国との対話の重要性を説く専門家たちが増えている。

 あるオバマ政権の元ホワイトハウス高官に上記の世論調査の結果を見せると、「日本政府はこの国民の声をなぜ聞かないのだ」と即答し、今こそ中国との外交努力が必要だ、と熱弁した。

米議会議員会館の廊下

 おりしも、麻生太郎副総理(当時)総裁が8月に訪台し、「“戦う覚悟”を持つことが地域の抑止力になる」と発言したというニュースが広がっていた時期であった。台湾有事に自衛隊を送ることに世論の7割以上が反対なのだから、戦う覚悟なんぞ国民のほとんどにあるはずもない。

 にもかかわらず、民意を代表していないこの威勢よい副首相の発言はアメリカにも届き「日本の声」として米政界の強硬派にも伝わる。そして、強硬派同士呼応して、さらに強硬な対中政策が日米両国で作られていく。

 日本は、中国とは経済の縁を切ることもできず、文化圏を共有する隣国である。台湾有事では壊滅的な被害を日本は受けうる。

「この“強硬なアメリカ”に、どこまでついていく気なんだ」

 これが、この夏、ワシントンでの面談を繰り返した私の痛烈な感想である。

 
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猿田佐世

猿田佐世

猿田佐世(さるた・さよ)/シンクタンク「新外交イニシアティブ(ND)」代表・弁護士(日本・ニューヨーク州)。各外交・政治問題について、ワシントンにおいて米議会等にロビイングを行う他、国会議員や地方公共団体等の訪米行動を実施。研究テーマは日米外交の制度論。著書に「新しい日米外交を切り拓く(集英社)」「自発的対米従属(角川新書)」など

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