飼い主さんの目線で猫のストーリーを紡ぐ連載「猫をたずねて三千里」。今回は2匹の保護猫を愛護団体から引き取った40代の暢(しのぶ)さんのお話です。どちらの猫も人を極度に怖がるため、それまでご縁が誰ともつながらなかったそう。ところが、しのぶさんとの出会いで2匹は変わっていったのです。
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我が家には黒猫の「音」(おと/オス)と、茶白猫の「ニーナ」(メス)がいます。両方とも推定2歳。2022年の春、少しの時間差で同じ愛護団体から迎え入れました。兄妹ではないのですが、2匹には共通したところがあります。それは、とびきり怖がりだということ。
「音」はシャーッと相手に威嚇する余裕もなく逃げる。「ニーナ」は威嚇して前足が出る(引っ掻こうとする)。膝に乗るなんて夢のまた夢……ところがこの夏、どちらも“体”に触らせてくれるようになりました! ここまでの道のりを少しお話します。
先代猫を失い、家から色が消えた
家に先に来たのは「音」です。迎えたきっかけは、結婚後に飼った先代猫の「すみれ」が2020年に19歳で亡くなったこと。その3年前、独身時代から一緒だった「こつぶ」という黒猫も18歳で看取りました。先代たちがいなくなった後の“喪失感”がとにかく大きくて、部屋からは色が消え、すべてがグレーに見えるようになったのです。
そのうちに、「飼うわけでないから」といいながら、私はネットで猫を探すようになりました。譲渡会にも行きました。でもなかなかよい出会いはありませんでした。ところが、ある愛護団体の里親探しのサイトを覗いていた時、1匹の黒猫に目が留まったんです。
「可愛いなあ」
団体に連絡して会いにいくと、スタッフの方が「怖がるのであの子と目を合わせないで」とおっしゃる。それでそっとケージを見たら、やはり可愛くて、胸がドキン。それが「音」との初対面でした。兄弟が先にもらわれ、本猫もトライアルしたものの、“出戻った”と聞きました。その時、触われなくても、時間がかかっても、この子と暮らしたいと思ったのです。
トライアルの日、スタッフの方が私の膝に洗濯ネットに入れた「音」を膝に優しくぽんと乗せて、「これがたぶん抱っこできる“最後”だと思う」とおっしゃいました。シェルターに1年近くいた間も(誰も)一度も触れなかったそうで、覚悟しないと、と思いました。
「音」があまりにも大声で鳴いたので、来たその日にケージから出すと、勝手口の隙間にひきこもり。私と主人が起きている間は「姿をまったく見せない」という日々が、一カ月以上続きました。でも、食いしん坊で、人が見ていない時間にご飯はしっかり食べていました。
「ニーナ」のほうは、「音」の正式譲渡の日に、「怖がりな子がもう一匹いるのですが、どうですか? 人馴れの経験だけでもさせてもらえませんか?」とスタッフさんに相談されたのです。「ニーナ」は、とても可愛いのに人に馴れないという理由で、お見合いすら叶わなかった子。シェルターでは「音」と仲が良かったそうです。
私は悩みました。複数飼いの良さはわかるけれど、2匹では費用も責任も倍になります。それに顔見知りの怖がり猫同士がくっついたら、人間に近づくのも先になるでしょう……。
一カ月近く考えて、「ニーナ」を“預かる”ことにしたのですが、「音」が思いがけない行動を取りました。我が家のケージに入った「ニーナ」に近づいていって、鼻で挨拶したのです。「覚えていたんだ!」と感動しました。その後も「音」はケージの上で寝たり、優しく寄り添う仕草を見せて、2匹の間にある絆を見せてくれました。
それが決め手となり、4月に「ニーナ」を正式に家の子にすることにしました。「2匹が楽しいのがいちばん。私たちに慣れるのはいつでもいいものね」と主人とも話しました
猫と仲良くなるには?
2匹はすぐに遊ぶようになりましたが、私や主人が近づくと、“散り散り”になる。だから私たちは距離を取り、通り過ぎる時は凝視しないようにして、名前だけは呼ぶようにしました。想定内と思っても、やはりさみしく、早く猫たちとお近づきになりたいと思いました。
猫と仲良くなるには“同じ空間で寝る”のがいちばん。そう思った私は、2階で主人と寝るのをやめて、猫たちがいるリビングに布団を持ちこんで、コタツで寝るようになりました。そのまま数カ月、”リビング寝“を続けました。
夏になると、「音」の鼻先に指で触れるようになりました。そこから徐々に顔まわりも触れるようになっていきました。きっかけは食事です。食事の時、「頭をさわらせて」というと、ご飯の前に触らせてくれるようになりました。それがルーティン化し、頭を撫でるまで食べないで待つように(笑)。動機づけがうまくいったんです。でも、体には触れませんでした。秋になって私自身が体調を崩し、リビングで寝るのを少し休んだのですが、その間、猫たちとの距離はあまり縮まりませんでした。