前出の明石さんもまた、社会の問題であり、家族だけにその責を負わすべきではないと考える。一方でこう思う。
「では、社会を変えるのは誰か。やはり家族から、僕は出発したい。こういう社会を作った大人たち、80世代の責任はある。一つ屋根の下、子どもが葛藤を抱え人生を諦めているのなら、そこに支援を届けるべきだと僕は思う」
開業医の父親の下、医者の道を強制されたが、拒否して教員の道に進んだ長男は、20代後半でアパートから出られなくなり、自宅に戻り、50歳になるまで自室で自分を責め続けた。父親は長男に罵詈雑言を浴びせるだけ。当初は明石さんと会うことすら拒否していたが、「どうやったら快適にひきこもれるか、一緒に考えようよ」と声をかけたところ、長男はこう言った。
「僕は親の家でなんか暮らしたくない」
そこで、生活保護を申請してアパートを借り、建築現場での遺跡発掘のアルバイトを紹介した。今は「仕事を終えて、お店で軽く、お酒を飲むのがささやかな楽しみです」と明石さんに話す。
親の家にいたままだったら、不本意な60代、70代を迎えていたはずだ。ひきこもる当事者にこそ光を届けたいと明石さんは願う。
まだまだ、外側からの光が届かない8050、9060の家族が、どれほどこの国に埋もれていることか。中高年ひきこもり61万人はこの社会の歪みを、その存在を通して訴えている。(ジャーナリスト・黒川祥子)
※AERA 2023年9月11日号より抜粋