「夫の顔色をうかがい、子どもにもいい顔をする母親は多い。そして、娘を手元に置いておきたく、手放せない」
長期間の支援を通して何も変わらない事態に、明石さんはついに母親に「あなたが家を出なさい」と助言した。
「あなたは『娘が泣いていて、苦しい』とずっと言っている。『もう、私が持たない』と。この異常な状態を誤魔化してキープしたから、今がある。異常な状態を崩すには、傷ついているあなたが行動するしかない」
母親は思案して、夫に「家を出る」ことを告げた。すると、夫が変わった。今までの一方的な上からの物言いを改めたところ、娘と談笑するシーンも見られるようになったという。
母親はついに親をおりる覚悟をした。そのことが、共依存のような異常な状態を維持し続けてきた家族のありように、一つの変化をもたらしたのだ。
「お母さんが覚悟を決めたから、何かが変わり始めた。その覚悟が緩んだら、元の木阿弥になると思うけれど」
「自助自立」の社会で親子が運命共同体になった
一方、社会福祉を専門とする白梅学園大学名誉教授の長谷川俊雄さんは、8050問題は家族の問題ではなく、社会構造との関連で把握する問題だと見る。
「誰に対しても自助自立を強要する、ここ30年来の社会的排除の結果、親子が運命共同体になってしまい、孤立して生きることを受動的に選択せざるを得なかったのだと思います。『相互扶助』や『共生』ではなく、『自己責任』を強いられる社会は、弱者には非常に苦しい。社会から退去せざるを得ず、“命のその日暮らし”をするしかない親と子が、どれほどいることか」
社会から孤立した生活を長年にわたり維持してきた8050の親子に、無理やり外側から介入し、生活を変える支援を押し付けることは暴力的な側面がある、と注意喚起する。
「大切なのはまず、安否確認。そして、相手を不安にさせない、関係を作るための努力。背景と経過を見極めた上での、個別に応じた支援が非常に重要になる。8050を、一方的に決めつけて捉えることは危険です」