落ち着かなさの背景には、プリゴジン氏がロシア国民の間に持っていた一種の「カリスマ性」もあっただろう。

 ワグネルは、プリゴジン氏が資金を出してつくったいわば「傭兵集団」。約2万5千人を擁し、中東・シリア、アフリカなどへ密かに派遣され、親ロシアの政権にテコ入れしてきた。シリアでは、戦闘だけでなく、民間人を拷問したり、虐殺したりする動画がSNSにアップされた。

 ウクライナ侵攻では、ロシア軍が苦戦する東部バフムトの戦線たて直しのため、プリゴジン氏が、ロシア国内の刑務所を回って、リクルート。受刑者たちを「刑期短縮」を餌にして兵士にしたてて赴かせ、「戦果」をあげた。

 実は、正規軍ではない傭兵集団をつくるのは、ロシアでは違法。クレムリンも、海外に「傭兵(ワグネル)はいない」と、その存在を否定してきた。

 しかし今回、プーチン氏は視聴者の前で、長らく「日陰の存在」だったワグネルに感謝の意を表明せざるを得なかった。これは、やむを得ない面もあった。プリゴジン氏には一定の大衆人気や「カリスマ性」もあったからだ。

 ワグネルがロシア西部で反乱を起こし、ロシア軍基地司令部を占拠して、モスクワへも「進軍」しようとした6月。

「ロシア市民の3人に1人がプリゴジン氏の活動を支持している」

反乱を取りやめてロストフ市を去るプリゴジン氏と記念撮影する市民=6月24日、テレグラムチャンネル「GREY ZONE」より
反乱を取りやめてロストフ市を去るプリゴジン氏と記念撮影する市民=6月24日、テレグラムチャンネル「GREY ZONE」より

 独立系世論調査機関「レバダ・センター」が、こんな調査結果を明らかにした。「支持する」が34%、「支持しない」が39%で、賛否が拮抗した。この調査は、ロシア指導層に対する評価を尋ねたもので、プリゴジン氏は、ショイグ国防相の支持51%よりは落ちるものの、あけすけな発言が人々をひきつけた。反乱の直前、プリゴジン氏は「ロシアは破滅の瀬戸際にある」「(墜落する)飛行機のように分解する」などと警告していた。ワグネルに比べ、正規軍は士気が低い、とも述べた。

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