文部科学省は東日本大震災の翌2012年、福島県と宮城県(仙台市を除く)で避難所となった学校525校を対象にした調査を実施した。「問題となった施設・設備」を聞いたところ、回答の74.7%が「トイレ」と答え、最も多かった。

 断水が続いたため水を沢から汲んできたり、プールからバケツで運んだりして流したという避難所もあった。また仮設トイレを設けたが「屋根や夜間照明がなかったため、汚れてしまい大変だった」という報告もあった。

 民間の調査会社による「2019年避難経験者・災害時避難所調査」でも、「避難所で過ごすなかで困ったこと」という問いに対し、「トイレ」と答えた人が断トツに多かった。

災害関連死を減らしたい

 災害派遣トイレネットワークプロジェクト「みんな元気になるトイレ」の発起人で助け合いジャパンの共同代表理事、石川淳哉さんによると、現在プロジェクトが採用しているトイレトレーラーは、アメリカ・ロサンゼルスに住む日本人が開発・制作した。東日本大震災の津波や避難所が大変なことになっているという報道の映像を見て、「トイレだけからなるトレーラー」を考案した。

「アメリカでトイレトレーラーを作った人たちは『こんなのどう?』と船に載せて日本に送ってきた。2016年4月に地震が起きた時、私たちはそれを宇城市の避難所の前に置いて使ってもらいました。役に立ったと感謝されたのですが、価格が高いこともあって財政状態が厳しい自治体による導入を実現するには、その後2年間かかりました」(石川さん)

 一見、突飛なアイディアを実現した石川さんら関係者には、「災害関連死を減らしたい」という思いがあった。地震による建物倒壊に巻き込まれたり、大雨により崩れた山の土砂に埋まったりといった災害そのものによる死ではなく、避難生活などが原因で亡くなる災害関連死は深刻だ。

 熊本地震の場合、273人の死者のうち223人が災害関連死、地震そのものによる死者は50人。災害関連死の死者数は地震時の4.46倍にのぼる。

「災害で怖いのは災害関連死です。それは人の仕組みで解決できる。避難生活でトイレを我慢することによって体調を崩す。避難生活のトイレ問題をなんとかしよう、と。それを皆で解決していきましょうと考えました」。石川さんは振り返る。

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