いまや英語も堪能になり、友人に囲まれて大学生活を送るマット。しかし相変わらず「異国にいる日本人」という視線にさらされる現実にうんざりもしている。黒人の友人ゼイドが言う〈黄色いやつはみんなそうなのか? (略)文句も言わないけど意見も言わない。そのくせ、人数だけはやたら多い〉などストレートな会話にドキリとさせられる。地元の大学に通う息子さんの観察も役に立っていると岩城さん。
「友だちとのやりとりや学校での様子を間近で見てきたので、題材には事欠きません」
日本にはない事象も興味深い。例えばマットが誘われるデモ。現地ではSNSを通じて若い世代の間でカジュアルに行われているそうだ。ダイバーシティーをめぐる描写にも気づきがある。バイトで日本人役を演じたマットは〈もっと、日本人らしく(英語を)話してくれないか?〉と注意される。〈おれみたいなのは「ダイバーシティー」の道具にするには持ってこいなんだろうな〉とマットは親しくなったアビーにこぼす。だがアルメニアにルーツを持つ彼女は〈ほとんどの人はアルメニアなんて国、聞いたこともない〉〈日本人なんて立派なマジョリティー〉と反発する。