岩城けい(いわき・けい)/1971年、大阪府生まれ。大学卒業後、オーストラリアに渡り就職。2013年に『さようなら、オレンジ』で太宰治賞を受賞しデビュー。14年に同作で大江健三郎賞を、17年に『Masato』で坪田譲治文学賞を受賞。他著書に『Matt』など(撮影/写真映像部・松永卓也)
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 AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。

『M(エム)』は多民族国家で生きる若者のリアルな姿を描いた越境青春小説。大学生のマットこと真人は、小学生のときに日本人の両親と姉とオーストラリアにやってきた。さまざまな壁にぶつかりながら成長した彼はいまシェアハウスに暮らしカフェや役者のアルバイトをしながら日々を過ごしている。あるときアルメニアにルーツを持つアビーと出会い惹かれ合うが──著者である岩城けいさんに同書にかける思いを聞いた。

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 オーストラリアで暮らす日本人青年マットの日々を描いた『M』。小学生時代を描いた『Masato』、高校時代を描いた『Matt』から続く最終章だ。

「最初から3部作にしようと思っていました」と岩城けいさん(52)は話す。自身も大学卒業後に渡豪して30年になる。

「少年を主人公にした理由は移民1世の次の世代を描きたかったこと。それに自分と同世代くらいの女性は書きにくいんです。いろいろな背景や事情を考えてしまってセリフが出てこない。でも『男子』はもっとシンプルで直球なので書きやすい(笑)」

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