9回裏、「麟太郎に回そう」を合言葉に、花巻東は打者8人を送り込んで4点を返した。陽が沈んだ甲子園のスタンドに、花巻東を後押しする手拍子が広がる。2死二、三塁で、一、二塁間へ打球が飛ぶ。途中出場の仙台育英・浅面大地が体を張ってボールを止め、体勢を崩しながら送球する。一塁ベースをめがけてヘッドスライディングを見せ、顔やユニフォームを泥だらけにしながら呆然と座り込む佐々木麟太郎の姿がそこにはあった。試合後の取材ルームで、時折、涙を浮かべながら彼は言った。
「花巻東の先輩たちがずっと貫いてきた『岩手から日本一』というテーマを達成するために、これからの後輩たちがやってくれると思っているので、甲子園の土は持ち帰らなかった」
仙台育英の18人に対し、花巻東はベンチ入り全員となる20人を起用した。両校合わせて38人の出場は1試合最多。東北勢対決となった準々決勝には、激しくぶつかり合う互いの意地と思惑があった。
(佐々木亨)
※AERAオンライン限定記事