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 コロナ禍で人とのつながりが希薄化し、孤独感を抱える若者も少なくない。孤独や孤立は時として、凶悪事件につながることもある。専門家に解消する術を聞いた。AERA 2023年8月14-21日合併号から。

【図表】孤独感が「しばしばある・常にある」人の割合はこちら

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 凶行に走る若者の背景に「孤独」があったケースは少なくない。2021年10月、京王線の車内で、映画バットマンシリーズの悪役「ジョーカー」に扮して乗客をナイフで襲撃するなどした被告の男(26)は動機の一つに「仕事で失敗し、友人関係もうまくいかなかった」と供述した(今年7月31日に懲役23年の判決が言い渡された)。

 犯罪心理学が専門の東洋大学の桐生正幸教授は、こう述べる。

「私たちは、アクセルとブレーキを交互に踏み分けて暮らしていますが、どうしてもアクセルばかり踏んでブレーキが利きにくい人がいます。他人への攻撃行動には、きっかけが重要になりますが、孤独というものが後押ししたのだと感じます」

 人が犯罪を起こさないのは、社会とのしっかりとした絆があるからで、その絆が弱まった時や壊れた時にも逸脱した行動が起きると考えられている──。アメリカの社会学者ハーシが提唱した「ソーシャルボンド(社会的な絆)理論」だ。桐生教授は、孤独によって社会的な絆が弱まり、何かのきっかけで感情が爆発したのだろうと見る。

「事件の根底には、つながりのある人がおらず、自分は社会から必要とされていないのではという気持ちがあったと思います」

 そして今、コロナ禍で人とのつながりが希薄化し、孤独・孤立を深める若者が増えた。内閣官房が3月に公表した「人々のつながりに関する基礎調査」によれば、孤独感が「しばしばある・常にある」と回答したのは年代別では30代が7.2%と最も多く、続いて20代(7.1%)となった。

居場所の網を幅広く

 孤独・孤立の問題に詳しい早稲田大学の石田光規(みつのり)教授は、コロナ禍は「選別的な側面を強めた」と語る。

「コロナ前から人間関係をある程度選ぶようになりましたが、コロナ禍で拍車がかかりました。つまり、不要不急の人との接触はやめるという風潮になり、自分と考えや趣味が合う人とだけつながり、異なる立場の人とのつながりが薄まりました」

 その結果、考えが一つの方向に固まってしまう可能性は否定できないと言う。

「多様な人に会い、その中で考えを吸収したり自分の立ち位置を決めたりしていくことができないので、どんどん一つの考えに凝り固まっていく可能性は非常に高いと思います。そしてそれが、暴力的な方向に向かうことも考えられます」(石田教授)

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