KISA2隊は2回目の放送だった。コロナに立ち向かう彼らが取材に応じてくれたからこそ、放送できた(写真:MBS「情熱大陸」提供)

 説明もないことで、中村さんがテンパっていることはすぐに分かった。夕方、取材が終わり事務所から改めて電話をかけると、全国的に活動するコロナの訪問診療チーム「KISA2隊(きさつたい)」の医師らを取材するために、すぐに秋田へ行ってほしいと言う。他のディレクターも、各県に飛び、1日で取材し、それをすぐに編集して、日曜日のオンエアにこぎつけるのだ、と。

 慌てて望月さんが取材先へ電話をすると、明日の朝10時に来てほしいとのこと。飛行機の最終便は40分後。カメラ一台を携え、タクシーに飛び乗った。最終便に何とか乗り込み、翌朝の取材にかけつけた。

「現場では、目の前のことを自分なりにどう解釈して撮影するか、それだけでした」

取材力と機動力が結実

 金曜日の半日で撮影を終え、東京にすぐに舞い戻る。全国に散らばっていたディレクターたちも取材を終えて続々と帰ってきた。中村さんたちは徹夜でそれらを編集していく。窪田さんは土曜日にナレーションを録りに来て驚いた。

「全然、違和感がないんですよ。深く取材対象に入り込んでいていいなあと思った。3日でやったと聞いてびっくりしたくらい」

 チーム全員の取材力、機動力が結実した。

 22年7月から、毎日放送の沖倫太朗さん(42)が7代目のプロデューサーとして後を引き継いだ。沖さんはコロナで人間関係が希薄になっていた分、徹底的に濃密な人間関係を描いていきたいと考えている。コロナ禍でできなかった海外取材も意識的に増やしている。今の時代に人物ノンフィクションを作る意味をどう考えているのか。

「難しいけど、単純に人って面白くないですか、ということやと思います。今、ようやくマスクがはずれ、同じことを言っても、笑顔一つとっても伝わり方が全然違う。テレビのドキュメンタリーで、人の面白さというものをもう一回伝えていきたい」

 沖さんもプロデューサーとして、あの怒濤(どとう)の3日間を伴走していたのだが、もう3日で作るのは嫌ですよね?

「いや〜、僕も報道出身で、今日取材して、今日放送するというのは普通なんですよ。できるという自信はありますよね」

 7代目の覚悟も相当だ。

(編集部・大川恵実、塩見圭)

AERA 2023年8月14-21日合併号

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