中村卓也さん(左)と、沖倫太朗さん(右)。2人とも、企画から編集までこだわりにこだわる。中村さんは現在、「日曜日の初耳学」を担当

 特定の人物に迫るノンフィクション番組「情熱大陸」。密着取材が難しいコロナ禍をどう乗り切ったのか。本誌の人物ルポルタージュ「現代の肖像」の担当者が“同志”たちに会い、当時の話を聞いた。AERA 2023年8月14-21日合併号の記事を紹介する。

【写真】自宅でナレーション録りをする窪田等さん

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 人をつないでいくことが、こんなにも大変なのか。2020年から世界中でまん延したコロナには何度もそう思わされた。筆者は本誌連載「現代の肖像」の編集を担当している。「現代の肖像」は、一人の人物にフォーカスを当て、密着もしながら、3〜6カ月間取材をする人物ルポルタージュだ。

 密着取材が肝なのに、コロナ禍では密着することが許されない。誰も感染させずにどう取材をすべきか。連載に穴があくのではないかとおびえていた。

 当時、勝手に同志と感じていたのが、毎週日曜日の夜11時から放送される「情熱大陸」(TBS系)だ。肖像と同じく、一人の人物を追いかけるノンフィクション。映像を撮らないと始まらないテレビの方が、雑誌よりもさらに大変なのは、想像に難くなかった。けれども情熱大陸の放送は止まらなかった。

チームで動くのは初

「再放送はしなかったですね。それはもう、根性ですよ」

 毎日放送のプロデューサー、中村卓也さん(43)はそう話す。中村さんは17年11月〜22年10月頃まで、コロナ禍に情熱大陸の6代目のプロデューサーをつとめた。

「緊急事態宣言が出たあたりから、取材相手から『取材の時期をずらしてください』とか言われることが増えたんです。さらに社内でガイドラインができて、海外取材はもちろん、県外移動もあかんと言われて。医療現場や室内での取材もできなくなり、いろんな支障が出てきました」

 取材を予定していたイベントもライブも大会も、次々に延期、中止に。東京オリンピック・パラリンピックも延期になった。早急に手を打たねば情熱大陸のオンエアが継続できない状況になるのは明らかだった。

ウイルス学者の河岡義裕さん(写真:MBS「情熱大陸」提供)
コロナ禍になってすぐ、感染管理専門家の坂本史衣さん(写真:MBS「情熱大陸」提供)
ウイルス研究者の塩田達雄さん(写真:MBS「情熱大陸」提供)
獣医学博士の塚本康浩さん(写真:MBS「情熱大陸」提供)

 中村さんは情熱大陸をよく知る制作会社4社を緊急招集した。「コロナに立ち向かう人たち」というテーマを立ち上げ、感染症の研究者など、それぞれリサーチしてもらう。その結果、河岡義裕さん(ウイルス学者)、坂本史衣さん(感染管理専門家)、塩田達雄さん(ウイルス研究者)、塚本康浩さん(獣医学博士)の4人を取材することになり、すぐに4社で一斉に動いた。チームで動くのは初めて。通常は一つの制作会社が3カ月程度かけて一人の人物を追うが、そんな余裕はなかった。

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