ショックをうけたうちの一人が、2008年7月に産経新聞から週刊ダイヤモンドに移籍してきた山口圭介だった。
山口は、高校生の時に父親が多額の借金を背負って失踪している。バブルの崩壊で投資していた不動産や事業が焦げついたことが理由だった。そのとき以来、〈是とするも非とするも、総て算盤に拠り、算盤を離れて何物も無い〉というのは全くの真理だと思っていたし、だからその大元である経済を掘り下げるジャーナリズムをやりたくてダイヤモンド社に入社している。
山口は、急進派なきあとの、週刊ダイヤモンドの有料デジタル版のローンチの提案をまかされるが、ダイヤモンド・オンラインや、紙の営業・広告との調整は手にあまった。
週刊ダイヤモンド単独で有料デジタル化する案を取締役会にあげるが、否決されてしまう。
が、その否決の理由は、「週刊だけを有料化しても意味はない。組織改編をふくむもっと大きなDXを考えなくては」ということだった。
2016年6月に社長になっていた石田哲哉は、そのため外部からの人材の招聘を考える。ロイターでインターネットのビジネスをやっていた麻生祐司だ。麻生はもともと週刊ダイヤモンドの記者だった。その麻生を石田はこう言って口説く。
「もう一度、経済ジャーナリズムをダイヤモンド社に復興させたい。そのための組織改革を含めてお願いしたい」
こうして麻生は、2018年10月に古巣のダイヤモンド社に再入社、無料広告モデルを廃止し、紙と有料デジタル版の統合編集部をつくる改革に着手する。
以下次号。
下山進(しもやま・すすむ)/ノンフィクション作家・上智大学新聞学科非常勤講師。メディア業界の構造変化や興廃を、綿密な取材をもとに鮮やかに描き、メディアのあるべき姿について発信してきた。主な著書に『2050年のメディア』(文春文庫)など。
※AERA 2023年8月14日号-21日合併号