定年退職し、人間関係が希薄になった人々が自らの居場所を求めている。心地よい居場所をもつにはどうしたらいいのか、心理学者の榎本博明氏がアドバイスを送る。新著『60歳からめきめき元気になる人 「退職不安」を吹き飛ばす秘訣』(朝日新書)から一部抜粋、再編集し、紹介する。
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居場所の有無によって生きがい感が違ってくる
居場所があるかどうかで健康度や幸福度が違ってきて、それが生きがい感にも影響するというのは、生活者として実感するところではあるが、心理学的研究等によっても明らかになっている。その場合は、かかわる人がいるかどうかで居場所の有無が測定されている。
日頃からかかわる人がいるということは、その人と一緒にいる場が心の居場所になっていることを意味する。物理的に家があっても、家族との間に温かい心の交流がなければ心地よい居場所にはならない。
居場所を求めて競輪の場外車券売り場にほぼ毎日通うという74歳の男性がいる。5年ほど前から風邪のときや腰が痛いとき以外は、ゴールデンウィークもお盆もほぼ毎日、年間350日は通っているという。妻を亡くし、長年勤めた会社も辞めて年金生活に入った頃、家に閉じこもるのはいけないと思い、わずかな小遣いで日中を過ごす場所を探し、たどり着いたのが車券売り場だった(朝日新聞 2019年12月4日夕刊)。
ある車券売り場の運営会社によれば、会員数5400人の平均年齢は70歳を超え、ほとんどが年金生活者だという。一日の平均来場者数は700人ほどだが、偶数月の15日の後に増える。年金支給日が来ると増えるというのは、まさに60代以上の人たちの居場所になっていることの証拠と言える(同紙)。
ある自治体では、公民館や図書館で一日中新聞などを読んでいる定年後の男性たちがいることから、「男の居場所」の会が発足した。会員の平均年齢は80歳で、毎週1回の定例会のほかに、分科会やスポーツサークルが14もあり、自由に参加できる。分科会には、ヨーガやハイキング、歴史散歩、城めぐりなどがある。会長によれば、みんな地域に友だちができたと喜んでいる、前職については何も言わないのがルールなので上下関係がなく心地よいのだという(朝日新聞 2022年7月2日朝刊)。