札幌遺体切断事件の容疑者親子の自宅

 作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回は、家庭で起きる猟奇的な「家族の事件」について。

 女友だちが青ざめてこんな話をしてくれた。

 元カレの妻、という人からある日LINEにメッセージが入っていた。元カレのアカウントからである。

「○○の妻です。あなたのことは○○から聞いてます」

 あまりに怖くてすぐにブロックしたそうだが、それでも不安が募っているという。彼女がその男と恋愛関係にあったのはもう何年も前、男が結婚する前のことだ。ところが男が半年前に結婚してから、週に数度のペースで男からLINEが送られてくるようになった。内容はほぼ全て、妻にフライパンで殴られている、後頭部を蹴られている、ナイフを突きつけられている、炎天下のベランダに出されている、食事を与えられない……という虐待の記録である。1度はナイフを突きつける妻の手を払ったところ「骨が折れた」と大騒ぎになり(折れていなかった)、警察に通報されたこともあったという。

 どこまでが本当のことかは分からないが、朗らかで誰にも優しく(そしてとても優柔不断)、人気者の男だったはずが突然会社を辞めたり、昔からの人間関係を次々に切ったりするなど、悪い方向に変化して結婚生活に問題があるのは明らかだった。もちろん彼女は友人として「結婚を終わらせるしかない」とアドバイスをし続けたのだが、その度に彼は「彼女は間違っていない。彼女は可哀想なんだ。お前みたいな強い女には分からない。彼女は1人では生きられない。可哀想なんだ」とだいぶ失礼な方法で妻をかばい、「それは虐待だよ、逃げるしかないんだよ」とこちらが言い立てるほど、妻からの洗脳が深まり固定化していく……というような状況だったという。

「友だちとも家族とも縁が切れてる状態だから、何年後とかに、○○区の民家で白骨死体が発見とかいうニュースにならないか、心配なんですよね」

 いつか生死に関わる事件に発展してしまうのではないかと不安だが、何もできることもないですよね……と彼女は言った。

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北原みのり

北原みのり

北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

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事件の多くは家庭内で起きている