家族内事件、その極めつきが、今、世間をにぎわしている「木原事件」と「札幌首狩り家族事件」だろう。どちらも「週刊文春」のタイトルから取ったものだけれど、文春の身も蓋もないタイトルには目が離せない。「首狩り家族」の文字を見たときは目を疑ったが、殺人の送り迎えをするような父親、切った首を自宅に持ち帰ったことを認識していたという母親など、いったいここに至るまでにどのような会話が、どのようになされていたのか想像を絶するものがある。ただこの事件、単純な「猟奇」というよりは、男性から暴行を受けたという話が一部報じられている。もし事実だとするならば、精神科医であり、患者から信頼されていたという父親が、医療にも法にも頼らず、つまり一切の公助を頼らず、家族だけで、つまり究極の自助で解決をしようとした点が、時代を象徴するようにも感じられる。なぜそこまで絶望できたのか、極端の選択を選ぶまでに何があったのか。

 また木原官房副長官の妻の前夫の死にまつわる事件=文春によれば「木原事件」は、週を重ねるごとに、記者自身も想定していた域を超えた凄まじい内容になっている。自殺として処理された前夫の事件に「事件性がある」と再調査が行われた際、妻が重要参考人として警察に呼ばれたこと、結果的に「事件性がない」と警察庁長官が発表したが、そのことに「自殺を示す証拠はない」「事件性がある」と真っ向から反論をはじめた元捜査員の登場など、目が離せない状況だ。現職の官房副長官が「巻き込まれた」事件が今後どのように発展するのか分からないが、これも結局は家族の話である。家族の話であり、男女の話であり、合理的な判断や理屈を超えた「家族の事件」である。

 すごい時代を生きていると思う。結婚は愛の象徴のように語られ、家族愛こそが正義・善であるかのようにうたわれ、敵は家族の外にあるかのように喧伝される社会で、家族の中で起きる殺意、暴行、虐待はエスカレートしているようだ。何年に1度起きるか起きないか、日本中が注目するレベルの衝撃度の高い猟奇的な事件がここまで続くと、これはもう「日本社会」の問題でしかない。日本の家族に何が起きているのか。それこそ、「真相の解明が待たれる」。

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北原みのり

北原みのり

北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

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