高齢者男性の2割は週に1回以下しか会話しない
日本でも高齢の男性が社会的に孤立しやすいことは各種調査によっても確認されている。2017年に国立社会保障・人口問題研究所により実施された「生活と支え合いに関する調査」では会話頻度を調べているが、60歳以上の男性では、1週間に1回程度が約9%、2週間に1回以下が約13%であり、60歳以上の男性の2割超が週に1回以下しか人と話していない。ちなみに話し相手は同居もしくは別居の家族が多いが、家族を含めても週に1回以下しか話すことがないという男性が2割もいるのである。
このような実態からすると、とくに高齢期の男性においては、話ができる相手がいるような居場所づくりを考える必要があるだろう。男性の場合、女性と違って、情緒的コミュニケーションに慣れていない人が多いので、それが定年後のハンディにつながっている面もあるだろう。
必要なことを伝える道具的コミュニケーションに対して、気持ちのふれあい中心のコミュニケーションが情緒的コミュニケーションである。男性の場合、必要なことは話しても、とくに話す必要もないのにおしゃべりをするのは苦手、という人が多い。そのことが、退職後の居場所づくりをしにくくしているのではないか。
人間関係力の乏しい人たちが増えているせいで、人間関係のレンタルというようなおかしな商売も登場した。
結婚式をする際に、友だちがいないのはみっともないということで、新郎あるいは新婦が友だちをレンタルしてもらうこともあるという。「いいね!」がたくさんほしくて、インスタ映えするような「華のある女性」を友だちとしてレンタルしてもらい、一緒に撮った写真を投稿する人もいるようだ。
人間関係をレンタルに頼るなんて、近頃の若者はどうかしてると思う人もいるかもしれないが、年配者にもレンタルを利用する人がいるのだ。
仕事一途で、人づきあいというと仕事絡みのつきあいばかりで、プライベートなつきあいがなかったため、定年退職をしたら相手がおらず、家にひきこもり気味となってしまい、これはまずいと思った家族から「友だちのレンタル」を勧められたという人もいる。一緒に居酒屋に行って飲みながらしゃべったり、そのあとカラオケに行ったりするのだという。退職後の居場所づくりの深刻さを端的にあらわす事例と言える。
榎本博明 えのもと・ひろあき
1955年東京都生まれ。心理学博士。東京大学教育心理学科卒業。東芝市場調査課勤務の後、東京都立大学大学院心理学専攻博士課程中退。カリフォルニア大学客員研究員、大阪大学大学院助教授等を経て、MP人間科学研究所代表。『「上から目線」の構造』(日経BPマーケティング)『〈自分らしさ〉って何だろう?』 (ちくまプリマー新書)『50歳からのむなしさの心理学』(朝日新書)『自己肯定感という呪縛』(青春新書)など著書多数。