――しかし佐藤氏は、「(再調査の)終わり方が異常だった」と語りました。家宅捜索から1カ月足らずで、突然上司に「明日で終わり」と、捜査縮小を告げられたといいます。
不自然だと思いますよ。再捜査をはじめて約半年でようやくガサ入れにこぎつけて、犯人逮捕に向けて「さあこれから!」っていうときに、なんでやめちゃうの? 佐藤さんも、X子さんが直接手を下したわけではなくとも、事件の真相を知っている可能性が高いと踏んだから、10日間も取り調べを続けたわけです。最終的に、自殺か事件かの結論を出さないで、遺族にも説明しないなんて、聞いたことがありません。
それに、捜査“中止”ではなく“縮小”というのがずるいなと思うんですよ。きちんと理由を説明することなく、一人二人と担当捜査員を外して、いつの間にかなかったことにする。ガサだけでは決定的な証拠が見つからなかったということに加え、誰かの圧力が働いたと考えるのが妥当でしょう。
――木原氏が圧力をかけたということでしょうか?
いや、正直、木原さんクラスの国会議員が「もみ消せ」と言ったところで、誰も聞かないでしょう。だって、元法務大臣の河井克行氏さえ、公職選挙法違反で捕まるんですよ? むしろ警察は、組織トップの意向があれば、注文をつけてくる国会議員に対して、「生意気だな、ちょっとガサかけてビビらせてやるか」みたいなことも平気でできます。警察庁長官や警視総監に対して口を利けるような人じゃないと、圧力はかけられないでしょう。
――警察庁の露木康浩長官は7月13日、「事件性が認められないと警視庁が明らかにしている」と述べました。この発言を受け、佐藤氏は「長官がああ言っているから、(自殺という結論は)覆らないんじゃないかな」と語りましたが、小川さんはどう見ていますか?
再々捜査が難しいというのは、一般論として理解できます。ただこれは、逆に政界のほうから「捜査してくれ」と圧力がかかる可能性もゼロじゃないのかなと。だってこのまま捜査が進まなければ、木原さんはずーっと“グレー”のままですよ。将来の大臣とか総理候補だとか言われてますけど、今のままじゃ全部吹っ飛びます。X子さんだって疑惑が晴れなければ、人前に出られないでしょう。
もし「これ以上捜査するな」と圧力をかけたのが政界なら、「捜査しろ」っていう圧力も政界からかからないと、実現しないのでは? そのためには、世論の声も必要だと思います。
(聞き手・構成/AERA dot.編集部・大谷百合絵)
〇小川泰平(おがわ・たいへい)/1961年愛媛県生まれ。元刑事で、現在は犯罪ジャーナリストとして活動。1980年、神奈川県警察巡査としてキャリアをスタートし、警察本部捜査三課、国際捜査課などで主に被疑者の取り調べを担当。2009年に退職した。著書に『元刑事が明かす警察の裏側』など。