「同じ日本人でも気温が高い東南アジアで生まれ育った人のほうが、日本で生まれ育った人よりも汗を素早くかけるという、60年ほど前の論文報告があります。大規模な実験によるものではありませんが、ほかにも似たような報告はあり、乳幼児期に汗をかく環境で過ごしたほうがその後も汗をかきやすくなる可能性があると言われています」
しかし現代の子どもは、温暖化による気温の上昇もあり、冷房が利いた涼しい部屋で汗をかかずに過ごすことが多くなりました。
「短時間でもいいので、毎日外遊びをするなど、乳幼児のうちに無理のない範囲で汗をかけるような環境をつくることは大事です」(藤本医師)
多汗症かどうかを見極める方法とは?
暑いときや運動したときだけではなく、緊張したとき、驚いたときなど精神的な刺激によって汗が出ることもあります。体温調節のための発汗は「温熱性発汗」、精神的な刺激による発汗は「精神性発汗」と呼ばれます。緊張などによって交感神経の働きが活発になると、アセチルコリンという神経伝達物質が放出され、それが汗腺にある受容体に結合して、発汗が促されると考えられています。
温熱性発汗と精神性発汗は、汗をかく部位にも違いがあります。
「精神性発汗の特徴は、手のひら、足の裏に汗をかくことです。一般的に手足は温熱性発汗はありません。わきの下や頭、顔は温熱性と精神性、両方に関わります」(大嶋医師)
前述したように温熱性発汗は生命維持に不可欠ですが、精神性発汗の場合、暑くもないのに日常生活に支障をきたすほど大量に汗をかくことがあります。この場合「多汗症」という病気の可能性があります。約6万人を対象とした調査(2020年)では、1割の人に多汗症がみられました。(「原発性局所多汗症診療ガイドライン2023年改定版」から)
多汗症かどうかは、次の基準によって判断することができます。
部分的に過剰な発汗が、明らかな原因がないまま6カ月以上認められ、6項目のうち2項目以上が当てはまる場合に、「原発性多汗症」(以下多汗症)と診断されます。