子どもの頃、母と格闘した嵐のような日々。就職や結婚でそうした毎日から逃れた団塊ジュニアの女性たちが、弱ってきた老母の介護の問題に直面している。高齢化によって長期化している母娘問題。どうしたらいいのか。AERA 2023年7月31日号の記事を紹介する。
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公認心理師・臨床心理士の信田さよ子さん(77)は1995年からカウンセリングを通して多くの母娘問題に向き合ってきた。信田さんは言う。
「90年代は相談者の多くが30歳前後のキャリア女性、いわゆる団塊ジュニア世代でした。母からの過干渉や依存、虐待などを受け『母が重くてたまらない』と苦しむ彼女たちに母親と距離を取るようにカウンセリングをしてきた。しかしいま娘たちが50代になり、母親が70代、80代になった。彼女たちが直面しているのが、弱ってきた老母の介護なのです」
総務省の統計によると団塊世代(1947~50年生まれ)の女性は413万8千人。その娘に当たる団塊ジュニア世代(71~74年生まれ)の女性は393万人。ほぼ母ひとりを娘ひとりが背負う構造だ。さらに「コロナ禍の影響も大きい」と信田さんは言う。
「かつて母から虐待を受け、なんとか距離を取ることに成功した50代の娘が、コロナ禍で『マスクが買えない』と親に頼られ、実家に戻らざるを得なくなった。さらにコロナで父が亡くなってしまい、彼女はいま認知症が進行した母を自宅で介護しています」
母娘問題に国境なし、と思わされたのが俳優シャルロット・ゲンズブール(52)が初監督した映画「ジェーンとシャルロット」(8月4日公開)だ。今月16日に76歳で亡くなった母で俳優・歌手のジェーン・バーキンに迫ったドキュメンタリー。それは母の衝撃的な告白から始まる。
<私はあなたに気後れしていた。あなたの存在感は特別で(中略)近づくヒントがなかったの>
シャルロットは筆者の取材にこう話した。
「撮影は母に近づくための口実だったんです。(異父)姉妹のなかで私だけがよそ者扱いをされていると、ずっと感じてきました」
セルジュ・ゲンズブールとジェーンの間に生まれたシャルロットは、二人が別れた後、父のもとで成長した。13歳で俳優デビューし自立してきた娘の存在が、どこか母を怯(ひる)ませるものであったことが映画からわかる。