地域エコノミストで日本総研主席研究員の藻谷浩介さん
地域エコノミストで日本総研主席研究員の藻谷浩介さん

 現在、全国約1700自治体のうち、300近い自治体で70歳以上人口が減少している。「こうなれば福祉予算を減らして、子育て支援に予算を振り向けられるようになります。それで子育て環境が整えば、子どもが増え始める」と地域エコノミストの藻谷浩介氏は語る。同氏を取材した朝日新聞社編集委員の原真人氏の新著『アベノミクスは何を殺したか 日本の知性13人との闘論』(朝日新書)から一部を抜粋、再編集し、人口についての観点で見たアベノミクスを紹介する。

【グラフ】日本全体の年齢別人口、総人口の推移

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 一昔前なら日本経済が停滞する要因は、円高不況や産業競争力の衰退が理由にされることが多かった。一方、アベノミクスは、デフレが停滞の原因だとして金融緩和や財政出動が不足していることを問題視した政策だった。

 そうした視点とはまったく違う「生産年齢人口の減少」という現象に最初に光を当て、政策論として初めて採り上げたのは藻谷浩介である。今の日本の等身大の姿、自画像を描いていくうえで人口減少と超高齢化という事実を避けては通れなくなった。

 話題の著『デフレの正体』から10余年、そこで示した日本経済の診断や提言は生かされてきたのだろうか。当事者にその後の経過といまの思いを聞いてみよう。

――経済を動かすのは景気の波でなく、人口の波だという藻谷さんの発見は今では賛同者も多いですが、2010年に『デフレの正体』を発表した時には多くの批判があったそうですね。

藻谷:商業統計を調べていて、生産年齢人口の減少と消費停滞の連動に気づきました。でも当時は少なからぬ経済学者らが「人口とデフレは無関係だ」「人口減で供給力が落ちるならむしろインフレ要因になる」などと反論してきました。真の病因が特定できなければ誤った治療法に迷い込んでしまうと考えて提言したのに、古いセオリーを丸暗記していると、眼前の現実が見えなくなるのでしょうか。  

――2010年といえば、日本は中国に国内総生産(GDP)で抜かれ、半世紀近く続いた世界2位の経済大国の座を失ったタイミングです。人口減と経済大国からの転落。二つのショックがその後、日本全体に悲観的な空気を広げていったと思います。

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異次元緩和でも消費は増えていない