――本来、長寿大国は誇るべきことなのですが、最近は先々の生活資金面から長生きに不安を抱く人が増えています。これも消費を控える要因ではないですか。

藻谷:高齢者の多くが金銭面の不安を抱えているのは確かですが、一方で高齢の富裕層が膨大な金融資産を抱え込んでいる現実もあります。持てる高齢者が生涯使わない貯蓄の一部を、持たざる高齢者の生活資金に回す。それだけで若者に負担をかけずに事態は改善できるはずです。年金は、現役世代の保険料で今の高齢者の年金原資を賄う「賦課方式」になっています。これを制度通り運用して支給額を減らし、貯金のある間は取り崩して生活してもらうようにする。他方で、生活保護制度の運用を改め、貯金の尽きた高齢者がすぐに生活費を受給できるようにする。そうすれば、受取額が年金より多くなる人も増えます。全体でみれば財政負担は減り、消費は増えるでしょう。

――人口減で過疎化がより進めば、地方が滅びてしまいませんか。

藻谷:人口減の理由は少子化です。だから、むしろ過疎自治体の方が生き残る確率は高いと思います。こんなデータがあります。2020年までの5年間に0~4歳の乳幼児人口が増えた過疎自治体は100以上ありました。逆に首都圏1都3県は、地方から親世代となる若者を集め続けたにもかかわらず5%減です。出生率の低い大都市圏の日本人は、生物集団として見ればすでに絶滅に向かう状態です。3人以上産んでも普通に暮らせる職住環境がないと、人口は維持できません。東京ではとても無理です。でも人口が数百人規模の過疎集落なら可能かもしれない。それにコロナ禍のような状況下では、密集度が低い田舎の方が感染リスクが低く、安全・安心な場所でした。

――藻谷さんが提唱していた訪日観光客の誘致は、コロナ禍がなければ年間4千万人が見込まれるほど順調でした。でもそれは円安のおかげであって、見方を変えれば一種の「日本の安売り」だったのではないですか。

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