藻谷:世の中に何となく漂っていた不安の正体を突き止め、指し示すのが狙いでしたが、結果的にショックを助長することになったのかもしれません。でも私は過度な悲観は無用だし、打つ手はあるとも訴えてきました。たとえば若者の賃上げとか、女性就労、外国人観光客の誘致などの内需底上げ策がそうです。
――その後もすぐに人口減少問題は政策の焦点にはなりませんでした。その後に発足した第2次安倍政権は、むしろ「デフレの原因は金融緩和が足りないからだ」という方に焦点をあてて、日本銀行にインフレ目標を掲げさせ、異次元金融緩和をやらせるようなことになりました。
藻谷:私が唱えた「人口原因説」に最も強く異論を唱えてきたのが、アベノミクスを支持するリフレ論者たちでした。「金融緩和で物価や株価を上げれば、消費も増える」という彼らの空論を信じ込んだ安倍元首相は鳴り物入りで異次元緩和を日銀にやらせました。その結果、株価は急騰しましたが、肝心の消費は私の本で予言した通り、ほとんど増えませんでした。
――アベノミクスの「人為的にインフレを起こす」という処方箋は見当ちがいだったということですね。
藻谷:1980年代後半のバブル経済の後の20年間の金融緩和で、10年前にはお金の量は3倍になっていましたが、それでも効果がなかったのですから、アベノミクスの結果は最初から明らかでした。本の発刊後に、小野善康・大阪大特任教授のいわば「預金フェチ(偏愛)」説を知って、いっそう理解が深まりました。現役世代は所得を消費に回しますが、高齢富裕層は欲しいものがなく、消費より貯金が快感になってしまっています。こうした預金フェチの人にため込まれてしまうので、金融緩和や財政刺激をしても需要は伸びないのです。
――コロナ禍のもとでもモノが足りなくなる供給ショックは、マスクなど一部を除けば起きませんでしたね。
藻谷:経済学の祖アダム・スミスの生きた18世紀なら、感染拡大下で働き手が足りなくなり、供給力が落ちたかもしれません。でも今はこんな事態になってもモノ不足にはならない。ロボットなどの進化によって生産力は補完され大きくなりました。太陽光エネルギーのような技術革新もあって資源制約も受けにくくなりました。人類は巨大な供給力を手に入れたのです。一方で消費が盛んな生産年齢人口が減っているうえに、お年寄りはお金を使わないから消費数量は減ってしまうのです。