藻谷:必ずしもそうとは言えません。16年から為替は円高方向に戻りましたが、訪日観光客数はむしろその後、急増しました。日本には国際観光地としての絶対的な優位性があるのです。地図アプリの衛星から見た世界地図をご覧いただくと、よく分かります。日本と同じ緯度、同じ経度をぐるっと1周してみてください。緑の山と青い海に恵まれた日本がいかに例外的な場所かわかるでしょう。世界から見た日本の自然や環境は、四季折々に訪れたい庭園のような場所なのです。しかも、とびきりおいしい食事までできる場所なのです。
問題は日本の観光政策が、客数だけを目標に安売りに走ってしまったことです。コロナが収束すれば外国人観光客は黙っていても再び増えるでしょう。それはデータからも予想できます。19年には豪州人の39人に1人、台湾人の5人に1人が日本を訪れました。米国(187人に1人)や中国(143人に1人)からも豪州や台湾並みに訪れるようになったら、とても対応できないほどです。東南アジアや欧州からの訪日客だってもっと増えるでしょう。だから客数を増やす目標はもうやめた方がいいです。日本経済の付加価値を効率よく高めるためには、中長期の滞在客に地場産品をより消費してもらう。そういう戦略に転換すべきです。
――中国も2014年に生産年齢人口が減少に転じました。22年には総人口が減少に転じる見込みです。いまは驚異的な成長を見せる中国ですが、近い将来、日本と同様に停滞の道をたどるのでしょうか。
藻谷:中国では高齢者が爆発的に増加しており、少子化も止まりません。20年遅れで日本を後追いしている感じです。日本や世界が中国の消費に依存して成長するのは早晩難しくなっていくでしょう。日本はかつて労働力不足の穴埋めに日系ブラジル人を呼び集めました。中国も同じように東南アジアに広がっている華僑を呼び集めざるを得なくなると見ています。
――そのころ日本はどうなっていますか。
藻谷:主要国で最初に65歳以上人口が増えない時代を迎えるはずです。すでに全国約1700自治体のうち、過疎地を中心に300近い自治体で70歳以上人口が減り始めました。こうなれば福祉予算を減らして、子育て支援に予算を振り向けられるようになります。それで子育て環境が整えば、子どもが増え始めるでしょう。私はそう予測しています。
(インタビューは2021年7月に朝日新聞に掲載)
●原 真人(はら・まこと)
1961年長野県生まれ。早稲田大卒。日本経済新聞社を経て88年に朝日新聞社に入社。経済記者として財務省や経産省、日本銀行などの政策取材のほか、金融、エネルギーなどの民間取材も多数経験。経済社説を担当する論説委員を経て、現在は編集委員。著書に『経済ニュースの裏読み深読み』(朝日新聞出版)、『日本「一発屋」論─バブル・成長信仰・アベノミクス』(朝日新書)、『日本銀行「失敗の本質」』(小学館新書)がある。