宗教保守派は、同性カップルが結婚する権利を認めた2015年の最高裁判決を苦々しく思っている。しかし、最高裁は今回、彼らに白星を与えた。
さらに最高裁は同じ6月30日、バイデン政権が進めてきた学生ローンの返済免除措置を認めない判断を下した。措置の対象者は4千万人以上に上り、4300億ドル(約62兆円)の予算が決定されていた。24年大統領選挙に出馬表明をしたバイデン氏にとっては、若い層の支持を得る上で要となる政策だったが覆された。
判決は、ミゲル・カルドナ教育長官が昨年承認した巨額の免除措置は、連邦議会が行政府に委任した権限を大幅に越えているとした。
■いずれも6対3
バイデン氏は20年大統領選で、学生ローンの返済を免除する法案を推進することを公約に掲げた。しかし、大統領就任後、議会において推進したい民主党の法案も、免除を禁止する共和党の法案も成立せず、膠着状態が続いていた。昨年、経済支援策の一部としてやっと認められた際は、学生やローン支払いを続けている若者らが晴れやかな表情で通りに繰り出した。
アファーマティブ・アクションの排除、同性婚カップルへの業務サービスの拒否を認めたこと、そして、学生ローンの免除措置排除は、いずれも保守派判事6人全員が多数派意見を書いた。保守派6人対リベラル派3人という党派性がくっきりと表れた形だ。
特にトランプ前大統領が指名した3人は、過去の判例が明白に誤りとみられる場合は、積極的に見直すという姿勢を示してきた。
昨年は人工妊娠中絶を女性の憲法上の権利と認めた1973年の「ロー対ウェード判決」を違憲とした。これに連動し、すでに十数州で人工妊娠中絶を禁止する法が成立した。
影響はそれだけではない。米国家安全保障会議(NSC)幹部は記者会見で、中絶禁止の州で勤務する米兵の士気が低下しているとの懸念を示した。中絶禁止の州に配属されると、中絶手術を受けられる他州に行くために軍務を離れなければならないケースが生じ、「優秀な人材を失う」という。
司法権の危機による三権分立の「崩壊」は、若い人やマイノリティーだけではなく幅広い国民が影響を受ける。今の米国は、その実験場のような様相を見せている。(ジャーナリスト・津山恵子=ニューヨーク)
※AERA 2023年7月31日号