民主主義が活発とされる米国で三権分立が揺らいでいる。連邦最高裁判所で保守派判事が多数派であるためで、保守的な判決による国民の権利の縮小が懸念されている。AERA 2023年7月31日号の記事を紹介する。
【写真】学生ローンの返済免除を認めない判断が示され、抗議する人々
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首都ワシントンの連邦最高裁前で、ニューヨークの若者が集まる公園で、デモが多発している。
「同性婚は罪ではない」「学生ローンを無効にして」と、参加者の手書きのプラカードが訴える。今年6月末にかけて、連邦最高裁が、米国内で確立されてきた多様性を守るための権利を制限する保守的な判断を相次いで下したためだ。
権力の集中を防ぎ、国民の権利と自由を守るための三権分立。その一角を担う司法権のトップである最高裁が、トランプ前大統領など政治的に保守派の市民を喜ばせる判断を繰り返し、三権分立を揺るがしている。最高裁判事の構成がリベラル派3人に対し、保守派6人と多数派を占めるためだ。
米大統領に指名され、上院に承認される最高裁判事は、共和党大統領に指名されたジョン・ロバーツ、クラレンス・トーマス、サミュエル・アリート、ニール・ゴーサッチ、ブレット・カバノー、エイミー・コニー・バレット各判事が保守派。これに対し、民主党大統領に指名されたソニア・ソトマイヨール、エレナ・ケイガン、ケタンジ・ブラウン・ジャクソン各判事がリベラル派となっている。
■「紳士協定」はどこに
歴史的に、司法の独立と三権分立を守るため、党派性は判決に持ち込まないようにするのが「紳士協定」となってきた。ところが今日、党派性をあからさまに反映する判断が相次いでいる。
まず、最高裁は6月29日、大学が入学の選考で人種を考慮する積極的差別是正措置(アファーマティブ・アクション)は違憲との判断を示した。これにより、アイビーリーグなど難関大学で、アフリカ系米国人などマイノリティーを一定の割合で入学させて多様性を確保してきた措置が排除された。
「アファーマティブ・アクションがなければ、今日の私はない」
判決の直後、テレビニュース番組にはアフリカ系米国人の弁護士や学識者が出演し、悲鳴にちかい声を上げた。
ヒスパニック系で初の最高裁判事となったリベラル派のソトマイヨール氏は、反対意見を書いた。「(米社会が)肌の色を意識しなかったことは、現在も過去もない。(中略)最高裁は、国民の多様性がリーダー層に反映されない場合に陥る危険な結果に目を向けていない」と痛烈に批判した。