6月に史上最年少で名人位を獲得した将棋の藤井聡太七冠は、先日も棋聖戦を4連覇し、前人未到の八冠にまた一歩近づきました。AERAに連載した棋士たちへのインタビューをまとめた『棋承転結 24の物語 棋士たちはいま』(松本博文著、朝日新聞出版)では、渡辺明九段をはじめ多くの棋士が、藤井七冠との対局の印象を語っていて、小学生だった頃やルーキー時代からタイトルを獲得していった現在まで、藤井七冠の軌跡が感じられます。2021年12月27日号に掲載された羽生世代にトータルで勝ち越している戸辺誠七段のインタビューは、「藤井さんにはじゃんけんでしか勝ったことがない」と、ユーモラスに語りつつ藤井七冠の最大の強みを「読みの深さ、クリアさ」と評します。(本文中の年齢・肩書はAERA掲載当時のままです)
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戸辺誠らの世代にとって羽生善治九段、佐藤康光九段、森内俊之九段(51)らは小さな頃から仰ぎ見るスーパースターだった。やがて戸辺はそのスターたちと対戦する立場となった。過去の成績は羽生に2勝3敗、佐藤に3勝1敗、森内に4勝1敗だ。
「強い相手と当たったら燃えますし、いい将棋も指せます。目標にしてきた羽生世代にトータルで勝ち越しているのが僕の中では誇りです」
兄貴分の渡辺明名人にも3勝1敗だ。
「渡辺さんはやりにくいと思うんです。たまに当たる弟分だから闘志が湧かないですよ。渡辺さんはずっとタイトル保持者で、こっちは普通の六段、七段ですから」
2019年。戸辺は藤井聡太現竜王(19)とイベントの席上対局で対戦した。
「藤井さんには勝ったことがあります。先手、後手を決めるじゃんけんですけど(笑)。将棋も勝つ気満々だったんですよ(笑)。中盤まではいい感じだったんですけど、一手悪手を指したら、そこからボロボロにされましたね。控室で『悔しい! 勝ちそうだったのに』って言ったら、渡辺さんたち先輩から『え? 戸辺さん、もしかして勝とうと思ってたの?』とか散々からかわれました(苦笑)。将棋界には『天才しかいない』と感じます。そこでやっていくのは本当に大変なんです(笑)」
藤井についてはどう思う?
「すごいの一言です。すべてにおいて普通の棋士を上回ってるんでしょうけど、その中でも読みの深さ、クリアさが最大の強みだと思います」