藤森は現在YouTuberとして、また将棋実況の名手として人気を博している。藤井の歴史的名手▲4一銀は藤森の名実況とともにドラマチックに伝えられた。藤井が敗れたある一戦では、藤森が「わっしょいわっしょい」と謎のテンションで実況し続け、ファンの記憶に残っている。

「勝負師として対局者と張り合い、実力や意地を見せようとするとおかしなことになる。視聴者目線で強い人の戦いを通訳している感じです。子どもの頃から周りの人を楽しませるのが好きでした。蒲田将棋クラブや将棋会館の控室でにぎやかにしゃべりながら10秒将棋を指していたときのように、素のままやっています」

 34歳となった今年。ABEMAのエントリートーナメントでプレーヤーとして大活躍を見せた。蒲田将棋クラブ以来の得意戦法、振り飛車穴を使い続けて強敵を連破。頂上まで勝ち上がった。決勝戦の相手はくしくも師匠の塚田泰明九段だった。

「ずっと実況をさせてもらっていたので、ごほうびをもらった気持ちです」

 団体戦には「わっしょい」というチーム名で出場。敗れはしたが、強豪チームを相手に善戦しファンを沸かせた。そしてまた実況者に戻り、熱戦を伝え続けている。

「受け師の本領発揮というところですね」

 48歳で勝ち続ける木村一基九段をそうたたえた。

(文/松本博文)

※松本博文著『棋承転結 24の物語 棋士たちのいま』(朝日新聞出版)から一部抜粋/AERA2021年9月6日号初出

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松本博文

松本博文

フリーの将棋ライター。東京大学将棋部OB。主な著書に『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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