また、手形だけではなく、現役力士の手も実際に測定した。学術誌に論文を提出したところ、査読者から「手形の写真から正確な指の長さを測定することができるのか」という指摘があったのだという。つまり、手形の写真を基にして指の長さを測るという測定方法に疑問が投げかけられたのだ。
その指摘を受け、李氏らは、いくつかの相撲部屋に連絡を取った。しかし、実際に測るまでには苦労したそう。当時、八百長事件で角界に激震が走っていた。そのため連絡した段階で断られることも多かったという。李氏は「門前払いされることが多くて……。一度断られても直接赴くなどして何とか入れてもらうこともありました」と当時を振り返る。
一方で、進んで研究に協力してくれる相撲部屋もあり、「ちゃんこ鍋をみんなでつつきながら、話をしたのはいい思い出です」と李氏。最終的には、数十人の実測データを取ることができた。そのデータと手形の写真のデータを比較し、手形の写真でも正確な測定ができていることを証明したという。
こうして、「薬指が人差し指と比較してより長い力士ほど、身長と体重が同じだとしても、高い番付に位置し、また勝率もいい」という結果が得られた。
しかし、まだ疑問が残る。どうして人差し指に対して薬指が長い力士ほど成績がよかったのか。それは母胎内にいるときのテストステロンを浴びる量と関係があるという。
母胎内で男性ホルモンであるテストステロンをより多く浴びると、人差し指と比べて薬指が長くなる。更に、心血管系などがより発達したり、アグレッシブさが増したりすることで、スポーツのパフォーマンスが向上するのだという。つまり、人差し指と薬指の長さの比率を調べれば、母胎内におけるテストステロンの暴露量の多寡が推定でき、スポーツにおけるパフォーマンスの良し悪しも推測できるというのだ。