すると、気になりだしたのが寺や神社で猫を見かけることが多かったことだ。
「地元の愛知県だけでなく、全国各地の神社仏閣でよく猫を目にした。それは、なぜなのか、調べるようになった」
猫は仏教が伝来したころ、ネズミによる食害を防ぐ家畜として中国大陸から日本へ持ち込まれた、と考えられてきた。
「それによって、猫が寺や神社に広まった、という説があります」
ただ、10年ほど前、長崎県・壱岐の弥生時代の遺跡から猫の骨が出土して、猫が日本にやってきた年代は大幅にさかのぼった。
「いずれにせよ、猫は公家や武将に寵愛されるなど、日本の歴史や文化と密接に絡んでいる。そういう視点で猫を撮ることが面白くなってきた」
17年、「猫びより」編集部に連載企画「寺社仏閣の猫」を持ち込むと、OKが出た。最初に撮る寺は名古屋市の郊外にある龍泉寺に決めた。
山奥の「狛猫」の神社も
口下手の小森さんにとって、最初の難関は、取材趣旨の説明だった。
「連載3回目以降は記事を見せて、取材内容を説明できるようになったので、怪しいやっちゃな、と思われずにすむようになったのですが、最初のころは、こういう取材したいと、住職さんに全部、言葉で説明しなければならなかった」
龍泉寺であれば、一宮市から近いので説明に行きやすく、撮り直しも容易では、と考えた。「それに愛知県民同士という思いもありました」。
さいわい、龍泉寺は猫への愛情が感じられる寺で、小森さんの熱意を受け入れてくれた。
「ぼくにとっては連載の出発点、1丁目1番地の写真になりました」
一方、「スマホのアンテナが1本くらいしか立たない、すごく山奥の神社」を訪れたこともある。
長野市と松本市のほぼ真ん中の山の中にある修那羅山安宮(しょならさんやすみや)神社(長野県筑北村)は、「冬は、人がほとんど来ない。そんな寺にも猫がいて、1日中、雪の中で遊んでいたりします」。
<猫がいると聞いて訪れたのはまだ雪深い2月の終わりのこと。人里離れて山中に分け入る道中は心細かったが、標高1037メートルの本殿に着くと、雪の中で仲良く遊ぶ3匹の猫に心が躍った。厳しい寒さに負けないどころか、冬を楽しむかのような様子に疲れが吹き飛んだ>(「猫びより」2022年7月号)
同神社を守るのは、狛(こま)犬ならぬ、「狛猫」である。これは養蚕業が盛んだったころの名残で、繭(まゆ)を食い荒らすネズミを退治してもらうため、猫が神格化された。
そんな地方の歴史と重ねて小森さんが撮影した猫の写真を目にすると味わい深い。
(アサヒカメラ・米倉昭仁)
【MEMO】小森正孝写真展「神様・仏様・おねこ様」
OM SYSTEM GALLERY 7月27日~8月7日