ヤン・ヨンヒ(やん・よんひ)/1964年、大阪府生まれ。米国NYのニュースクール大学大学院メディア・スタディーズ修了。95年から映像制作を始め、ドキュメンタリー3部作、「かぞくのくに」を制作。著書にノンフィクション『兄 かぞくのくに』、小説『朝鮮大学校物語』ほか(撮影/慎 芝賢)
ヤン・ヨンヒ(やん・よんひ)/1964年、大阪府生まれ。米国NYのニュースクール大学大学院メディア・スタディーズ修了。95年から映像制作を始め、ドキュメンタリー3部作、「かぞくのくに」を制作。著書にノンフィクション『兄 かぞくのくに』、小説『朝鮮大学校物語』ほか(撮影/慎 芝賢)

 AERAで連載中の「この人この本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。


 家族を描いたドキュメンタリーの3作目である「スープとイデオロギー」を韓国で公開するタイミングで、「なんとか本を出したい」と韓国の出版社から申し込まれ、短期間で一気に書き上げた。26年間家族や「国」を見て、撮って、考えてきたものがぎっしり注ぎ込まれている。「梁家」をめぐる人々の関係と背景の歴史を知れば、日本・韓国・北朝鮮の関係について改めて考えるきっかけにもなる『カメラを止めて書きます』。著者のヤン・ヨンヒさんに同書にかける思いを聞いた。


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 大阪市生野区鶴橋。ここには大きなコリアンタウンがあり、駅のホームに降り立っただけでどこからともなく焼き肉の匂いが漂ってくる。映画監督ヤン・ヨンヒさん(58)が生まれ育ったのも鶴橋である。


 両親は在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)の幹部。3人の兄はヤンさんが6歳の時、北朝鮮への「帰国事業」に参加し祖国へ渡った。こう書くとなんだかひどく堅苦しい家族に思えるが、ヤンさんが26年間にわたって撮影した家族ドキュメンタリー3部作「ディア・ピョンヤン」「愛しきソナ(「ソナ」とは北朝鮮で暮らす姪の名前)」「スープとイデオロギー」を観ると、別の姿が浮かび上がってくる。


 苦労しながら全体主義国家で暮らす3人の兄とその家族。彼らに膨大な物資やお金の仕送りを続ける両親。北朝鮮の実情を知るようになった娘は彼らにカメラを向けながら、時に強く批判してきた。それでも家族はそれぞれ愛情とユーモアをたっぷり持ち合わせ、とても人間臭い。私はヤンさんの作品を観るとき、笑わずにいられない。


「すべてのドキュメンタリーはエンターテインメントですよ。特に私は大阪人だからか笑いがないと嫌なんです(笑)」


 本書は、映像では表現しきれなかった家族のこと、ヤンさん自身のことなどが語られたエッセイ集である。

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