「そうま食べる通信」。地域の食材を、紹介する冊子とともに届けるシステム(季刊)で、20号を発刊した。読者は200人以上に上った
「そうま食べる通信」。地域の食材を、紹介する冊子とともに届けるシステム(季刊)で、20号を発刊した。読者は200人以上に上った

「放射性物質を理由に福島産をためらう人はすでに1割を切っており、『風評被害』との段階ではない」という。そのうえで市場の力学をこう解説する。

「魚など商品の取引環境ではネガティブストーリーは値下げ交渉の材料だ。これが出てきたら狙われるのが市場の理屈。だから今回も福島産の値下げ圧力が当然かかる」

「風評被害というと消費者が加害者かのような表現になる。実は、海洋放出はそんな単純なことではなく、値下げ交渉の材料を与え、魚の商取引の環境を買い手優位にするという問題を生むのです」

 現実に「処理水放出」の影響はもう始まっている。北海道産のナマコは中国でその多くが消費されるが、一部地域で6月に値下がり。放出計画の影響ではとの見方が広がる。

■偉大な先輩たち越える

 一方で、福島県漁業の中での力関係をこう分析する。「福島漁業の主力である、若手の多い相馬の底引き網船(23隻)は、震災前の漁獲量5割を回復しており、消費者との連携を広げる漁師も目立ち、本格操業に向けて県漁業全体を牽引しています」

 そのうえで、政府と福島漁業の構図を描いてみせる。

「震災後、津波と原発事故のダブルパンチでへこんだままで、まだ戻っていないのに、もう一発パンチを食らうような格好です。政府は新たな風評にしっかり対策するといいますが、へこんだものを戻そうとしている時に、もう一発食らわすのです。より戻りにくくなるだけなのに、『新たな風評』にしか賠償や対策を打たないとしています」

 基文が4代目船主を務める「清昭丸」は、25年春の進水に向け、秋から新しい船の建設準備に入る。大学生の時に亡くなった父親から譲り受けた今の船は「28歳」。サビも目立ち始めた。国の「がんばる漁業復興支援事業」を活用したもので、全体では計11隻が建造される。これを機に、親戚に頼んでいた「船頭」も交代、自らが舵(かじ)をとることになる。

 相馬の船はかつて「海賊」と称されたほどのエネルギーと行動力で知られた。中型船23隻と100隻を超える小型船の若さと伝統のパワーが、突破力となるか。

「震災前の復活が見えた? いいや、偉大な先輩たちを越えなくちゃ」

 基文は一歩先を見ている。(文中敬称略)(ジャーナリスト・菅沼栄一郎)

AERA 2023年7月24日号

暮らしとモノ班 for promotion
いよいよ「Amazonプライムデー」開始!おすすめ商品やセールで得するために知っておきたいこと一挙紹介