厳しい暑さが続く毎日の節電・節約対策として、体の内側から涼しくなりたい人は多いはず。古くから、キュウリやオクラなどの夏野菜を食べることは暑気払いの方法の一つとして知られてきた。だが、実は「その科学的根拠は乏しい」と管理栄養士は言う。人間の体温調整のメカニズムと、クールダウンに取り入れたい食材について聞いた。
【画像】解説してくれた日本ビューティーヘルス協会の会長を務める管理栄養士の池上淳子氏
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縁側に並ぶスイカ、屋台の冷やしキュウリ、盆棚に飾られたナス。高温多湿に負けない「涼」を呼ぶ食べものは、日本の夏の原風景に欠かせない要素の一つでもある。
夏に旬を迎える野菜や果物の多くが「体を冷やす」と考えられているのは、薬膳の五性(温性・熱性・涼性・寒性・平性)の分類に由来する。だが、専門家によると、栄養学では野菜が「体を冷やす」「体を温める」という根拠は存在しないという。
「薬膳は中医学の考え方に基づいており、その食品の『性質』が体にどう影響するかを見る学問。一方、栄養学は、その食品に含まれる『栄養素』の生理作用を見る学問で、根本的に両者は異なるものです。栄養学の研究で『夏野菜が体を冷やす』というメカニズムが解明されているわけではありません」
と語るのは、日本ビューティーヘルス協会の会長を務める管理栄養士の池上淳子氏。「夏野菜が体の熱を取る」根拠としてよく挙げられるのが、夏野菜にはカリウムや水分が多く含まれる、というもの。池上氏によると、確かにカリウムには体内の水分を調整したり、余分なナトリウムを排出したりする働きがある。
「夏野菜に含まれる水分やカリウムが利尿作用を促し、一時的に体が冷えることはあると思います。男性が排尿後にブルッと震えることがあるのは、体内にたまった温かい尿を一気に外に出すことで、体の熱が急に奪われるからです」
こう聞くと「夏野菜が体を冷やす」ことは一見理にかなっているようにも思えるが、忘れてはいけないのが人間の体の「恒常性」。人間には体の内部や環境の変化にかかわらず体温を36度前後に保つ性質があり、一時的に「冷えた」と感じてもしばらくすれば平常値の体温へと戻るのだ。