コロナ前 早朝の羽田空港(朝日新聞出版)
コロナ前 早朝の羽田空港(朝日新聞出版)

 今も若い人によく言うのですが、私は、空港に一歩入ったら、自分の家だと思って仕事をします。そして、誰でも自分の家にきたお客様にそうするように、今日のお客様はどうかな、この人は何か困っているのかな、何を聞こうとしたのかなって、ひとりひとりのお客様をちゃんと見るようにしています。

 だから、清掃員を透明人間だと思っている人に出会うと、すごく悲しくなってしまうんです。私たちも人間なんですよ、って。

 でも、その人個人を責めても仕方たがない。そういう環境で育った人だと思うから。

 たとえば、「勉強をしないと掃除夫にしかなれませんよ」というような親に育てられた子どもは、清掃の仕事は尊敬しなくていいと思うようになってしまうでしょう?

 そういうふうに大人になってしまった人たちを一人ずつつかまえて説得しても、考えを変えることはできないと思います。そうしたいとも思いません。

 それよりも、社会の価値観そのものを変えていきたいと思うのです。

 そのためには、私たち清掃員がいい仕事をするしかありません。自分の仕事に誇りを持って、納得できるまできちんとやり遂げること。それを続けていれば、気づいてくれる人は必ず現れます。

「ここのトイレはいつもきれいですね。ありがとう。きれいに使わなくちゃね」

 羽田空港でトイレ清掃の現場に入っていたときに、利用者の男性から言われた言葉ですが、こういう言葉を聞くと、本当にうれしい。自分が褒められたからうれしいのではなく、清掃の仕事をきちんと認めてくださっているのがうれしいのです。

新津春子さん(朝日新聞出版)
新津春子さん(朝日新聞出版)

 今、羽田空港(第1・第2旅りよ客かくターミナル)には1日約500人の清掃員が働いていますが、みんながそういう気持ちで仕事をしてくれているからこそ、「世界で最も清潔な空港」に2年連続(2014年当時)で選ばれることができたのだと思います。

 清掃は面白い仕事です。毎日違うお客様が来て、そこでひとときを過ごす。どうしたら気持ちよく過ごしてもらえるか、考えて、工夫して、それがお客様に伝わったときは本当にやりがいを感じます。技術を磨いていく喜びもあります。清掃員は「職人」。そういう誇りを持って仕事をしています。

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