元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。
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近頃最も注目した新聞記事は、地味な扱いで紙面の隅にひっそりと載っていた。米連邦取引委員会が、アマゾンの有料会員サービス「プライム」をめぐり、分かりづらいウェブサイトで数百万人を「だまして」同意なく入会させたとアマゾンを提訴した、という記事である。
いやいや、ホントそうよねアマゾンひどいよね! あーよかった。そう思ってたのは私だけじゃなかったんだ!
だってさ、日本でも、アマゾンを利用する際、注文を完了しようとすると、今回から無料のお急ぎ便を利用できますという聞いてもいないお知らせの後、「次に進む(試す)」というボタンがくっきりハッキリ登場。それを押さないと先へ進めないかのように思ってしまうのだが、目を凝らしてよーく見ると、その横にうっすーく小さな字で「プライム無料体験を試さないで注文を続ける」というボタンが。アマゾンに囲い込まれるつもりのない私は毎回そこを押し、ようやく買い物を完了できるのである。
この「くっきり」と「うっすーい」の差が激しすぎるのだ。とりわけ老眼がバリバリ進行していくお年頃となると、年々この「うっすーい」字が霧の彼方に霞んでいく。なので毎度「絶対引っかからないぞ!」と目力を込め、手元に注意して「利用しない」ボタンを押し続けて幾歳月。
その度に、これって孤立した年寄りを騙す各種詐欺とどう違うのかと立腹していた。こんなことを大企業が白昼堂々行って良いのか。
だが周囲の友人にそのことを訴えても「そんなことあったっけ?」。なので、もしや自分が超バカなだけなのかと弱気に口をつぐんでいたんだが、よく考えたらみなさま既にプライム会員だったのである。そこに属さぬ少数者の苦しみとは無縁なのだ。
当然アマゾン様にも言い分があり、プライム加入の仕組みは「明確かつシンプル」で指摘は事実無根と声明を発表。「明確」。そうですか。大企業アマゾン社員の誰もアレをひどいと思わなかったのか。そのことが一番怖い。
◎稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行
※AERA 2023年7月17日号