「戦後の少女マンガについて、資料が少ないこともあって、評論家が不正確な言説を書くようになりました。当事者の記憶をきちんと記録しておかなくてはいけない、と思って、皆さんにお声がけして『語る会』を始めたんです。マンガ家の方々ばかりでなく、編集者や貸本少女マンガ出版の方など、当時を知る方々が集まってくれました」

 今やマンガやアニメがクールジャパンともてはやされているが、50年代当時、マンガの社会的な地位は低かった。

「マンガは読んではいけないもの、と言われていましたし、ましてや女性がマンガを描くなんて、褒められたことではありませんでした。私も、同窓会などの集まりで、マンガを描いていると自分から言ったことはなかったんですよ」

 女性マンガ家をめぐる、当時の状況については、本書の編集者のひとり、増田のぞみさんの解説にくわしい。登場する女性マンガ家の多くが、同じような経験をしていることに、ただ驚く。

「今や大学で少女マンガのシンポジウムが開かれたり、私も呼ばれることがありますが、信じられない変化です。子どもの頃に、手塚先生の作品に出会って、広くて深い意味を持つ世界を描きたいと思いました。戦後、何もない中で美しい世界を描いた少女マンガを読者が喜んでくれた。そのことを知っていただきたいです」

(ライター・矢内裕子)

AERA 2023年7月17日号