■社員とフラットな関係
スタートアップ経営者という、自分に合わない名刺を持たなくてよいと思うと肩の荷が下りた。東京・銀座のコワーキングスペースを拠点に、今年で創業12年目を迎えるrootには社員15人、業務委託も含めると34人が在籍する。経営者の資質として弱みと取られがちな「内向型」のリーダーが、どうやって生存競争の厳しいウェブ業界を生き抜いてきたのか。
西村さんがまず心掛けたのは「自分にとって居心地のよい環境で勝負する」こと。その結果、自ずと生まれたのが社員とのフラットな関係性だ。「正直いまも、営業や人の多い懇親会はとても苦手」と話す西村さん。社内会議で冒頭にあいさつを求められると、お約束ごとのようにたいていは口ごもる。すると、社員から笑みがこぼれる。
「そこから話を始める感じです」(同)
場がほぐれれば、自分が考えていることを等身大の言葉で伝えやすい。「横に並んで話している感じ」がちょうどいい。西村さんが考える会社のビジョンやミッションは常に言語化し、アウトプットに努めている。その手段もユニークだ。社内専用のウェブラジオを開設し、社員にインタビューしてもらい、対話形式で自分の考えを発信している。社員とフラットに接することができれば、悩みや課題も吸い上げやすい。高圧的なリーダーや管理職によるハラスメントのリスクのある職場とは対照的な風通しの良さが生まれた。
内向型は熟考して判断できる強みもあるが、相手の感情に引っ張られやすい弱みもある。このため会議中、別の意見に流されそうになると、西村さんはその場で結論を出さず、必ずワンクッションおく。1週間ほど結論を先延ばしにするのも珍しくないという。
「自分とは異なる意見をそのまま受け入れるのではなく、咀嚼し自分の意見と織り交ぜることで視野を広げ、事業目的に照らして自分は何がしたいのかをじっくり考えて意思決定するよう心掛けると、失敗が減りました。内向型の慎重な性格は経営判断を誤りにくく、経営に向いていると感じています」(同)