AERA 2023年7月17日号より
AERA 2023年7月17日号より

■最も好きな授業は図工


 西村さんは子どもの頃から「人よりモノに向き合う」のが好きな性格だった。最も好きな授業は図工。1人で黙々と作業に打ち込んだ。


「自分の作品を気に入ってもらえるのはうれしいのですが、コンクールで表彰されたりするのは最悪。僕自身に焦点が当たるのはすごく嫌でした」(西村さん)


 クラスの輪に入るのが苦手。相手の感情が気になり、人とのコミュニケーションや自己開示に抵抗があった。家庭の経済状況が厳しかったのも影響し、「自分がやりたいこと」からも目を背けていた。転機は地元の高知県を離れた20歳の時。行き場のない人生から抜け出そうと東京に出た。3年間、掛け持ちのアルバイトに明け暮れた。居酒屋でバイトリーダーになった時、勤務中にバイトの後輩が客の飲み物をこぼし、西村さんが場を収めるため矢面に立った。しかし、客は怒りを増幅させるばかり。気づけば、西村さんに代わって社員の店長が対処していた。


「自分は人と向き合う仕事に向いていない」。そう考え、モノと向き合う仕事を探すうち、ECサイトの運営に興味を持った。ウェブ制作会社でアルバイトの後、ウェブデザインの専門学校に通い始めた。ユニクロのウェブサイト、CMなどを手掛けた中村勇吾氏に憧れ、ウェブデザイナーの道を志すように。3年間制作会社での修行後、東京・恵比寿でスタートアップの若手人材が集まるイベントに参加したのは2011年。当時はスマートフォンの黎明期だ。西村さんが提案した、スマホを使ってイベント開催中に参加者がリアルタイムに質問や意見を入力できるシステム構築のアイデアは最高賞に選ばれた。同年、スタートアップを創業。数年以内の事業化を目指した。しかし、みるみる資金が底をつき、京都でのカンファレンスから間もなく継続を断念。12年に自社サービスを収益化する目的で設立したデザイン会社「root」の業務を、他社の新規プロダクト開発の設計やデザイン制作を支援する役回りにシフトした。


「スタートアップのイメージは滅茶苦茶アクティブ。僕もそのイメージに乗っかってスタートダッシュしようとしたのですが、これって自分が一番苦手な振る舞いだと気づきました」(西村さん)

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